第526話 赤とんぼ

秋になり、空にはトンボが飛ぶようになった




虫かごと網を持って公園へと行く




トンボを捕まえるのは今回が初めてではない




過去に何度も捕まえているので、慣れたものだ




枝の先に止まった赤トンボにゆっくりと指を突きつけ、ゆっくりと回転させていく




トンボの頭はその指に合わせてクリクリと動く




しばらくして、トンボがゆらゆら揺れだした




「そろそろ頃合いかな」




トンボが目を回したと判断し、網を構える




しかし、若干早かったのか、トンボが飛ぶのと網を振り下ろすのが同時になった




「逃げられた?」




ギリギリ網の中かどうかというところ




網を確認すると、トンボの羽が見えた




「よかった、捕まえてた」




羽を持ってトンボを網から取り出そうとしたところ、違和感が




「ひっ!」




すぐにそのトンボを投げ捨てた




そのトンボには、頭が付いていなかった




網を振り下ろした場所を見ると、小さなトンボの頭があった




その頭は、まだ口を動かしている




胴体の方も、頭が無い状態で羽をばたばたと動かしている




その状態がとても気持ち悪くて、急いで家に帰った




よほど印象に残ったのか、小さな丸いものを見ると、トンボの頭に見える事がある




その頭は、いつまでも、いつまでも動いていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る