第525話 アリの巣

アリの巣を見つけた事がある




そんなものどこにでもあると思うだろうが、子供にとっては見つけるのは珍しかった




それはちょうど軒下にあった




雨が当たらないせいか、普通よりも大きな穴に見えた




ちょうど花に水をやろうと思っていたジョウロをアリの巣に掲げる




子供だった頃の私は、別にアリを殺してやろうとか考えていたわけではなく、ただ単純にアリの巣を水でいっぱいにしたかっただけと思う




ちょろちょろと少し大きなアリの巣に向かって水を入れる




入り口付近に居たアリたちは慌てて巣から出てきた




そして、すぐにジョウロの水は無くなった




それで終わり……にするはずもなく、すぐにジョウロに水を汲みに行った




戻った時にはあれだけうろちょろしていたアリの姿は見えなかった




急に水びだしになった巣から逃げたのだと思った




子供の私は、その巣に水のお代わりをした




今度こそアリの巣から水があふれるのを期待して




しかし、期待とは裏腹に、あっさりとジョウロの水はまた空になった




今思えば、子供用のジョウロは小さく、水なんてろくに入らなかったのだと思う




だが、子供の私はそれでもあきらめなかった




ジョウロに水をくむのを諦め、直接ホースをひっぱってきた




自分の足もびちゃびちゃにして、後で怒られることも分かっていたが、それでもホースをアリの巣へぶちこんだ




これならすぐに水があふれると思った




しかし、水が溢れてこない




もしかして、蛇口を開け忘れた? と自分の足のびちゃびちゃを忘れたかのように蛇口へと戻り、思い切り捻る




しかし、水は溢れてこない




「何やってるの! 服がびしょびしょじゃない! すぐにお風呂に入って着替えなさい!」




私の頭は母に叩かれ、言い訳しようと口を開くが、母はさっさと蛇口を閉めてホースを回収してしまった




ホースの抜けたアリの巣からは水が溢れていなかった




覗き込もうとしたが、母にえりくびをひっぱられながら風呂場へと連行された




その夜、私は水に溺れる夢を見た




次の日、おねしょをしたのは仕方が無い事だと思う




私は情けなく感じながらも、自分のパジャマを庭に干した




そして、昨日あったはずのアリの巣はきれいさっぱり無くなっていた


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