第515話 巨人

俺は山岳救助隊だ




救援要請があって雪山へ向かっている




雪で道が分からなくなったのか、今まで誰も行ったことのない場所で遭難したようだった




だが、所詮は連絡の取れる場所……最初はそう思っていた




ヘリコプターで近くまで行けるが、そこからは木や岩がじゃまで飛べない




近くの開けた場所で数名が降りる




そして、遭難があった場所へ向かったが、そこにはテントの残骸しか無かった




風雪を避けるためだろうか、少しくぼみになった数メートルの洞窟のような場所に立てられたテント




それがぐしゃぐしゃにつぶれていた。当然、中には人がおらず、どちらに逃げたのかもわからない




「足跡がありました……しかし……」




隊員からその続きの言葉が出てこない。それならば見たほうが早いだろうと、足早に向かう




「これは……」




それは1mほどの足跡だった。明らかに人間の物じゃない




その大きな足跡と共に、小さな足跡が続いていた。小さな足跡は、普通の人間の足跡だろう




しばらく足跡に沿って歩くと、血の匂いがしてきた




「うっ……ごえ……」




一人の隊員がえづく。見ると、岩肌に大きな血の跡がついていた




まるで、壁に向かって大きなカラーボールを投げたかのような、真っ赤な円が




しかし、地面にはあるはずのものが無かった




壁に叩きつけられた何かの死体が無い




「あ、居ました!」




別の隊員から報告が入った。がけ下に人影らしきものが見つかったそうだ




行ってみると、崖から足を踏み外したのか、すでに事切れている遺体だった




恐らく、この人が救助を求めたのだろう




その顔は、落下の為か恐怖の表情で固まっていた




その遺体を引き上げ、樹々の間を抜けていると




ズシンッ




と何か大きなものが倒れる様な音がした




しかし、ズシンッズシンッとその音は続いた




一瞬、周りの樹と同じくらいの何かが、少しふぶいてきた雪の向こうに見えた気がした

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