第472話 家賃滞納
家賃を滞納している部屋がある
かれこれ3か月は未払いだ
1か月2か月はまだ我慢できたが、3か月にもなればれっきとした家賃滞納者だろう
「おーい、〇〇さん、いるかい?」
この人は車も持っていないし、固定電話も設置していない
一応、携帯電話の電話番号は聞いていたからかけてみたが、電源が入っていないときた
「いないなら勝手に開けるよ!」
そう言ってマスターキーで鍵を開ける。ドアノブを握った瞬間、もしや孤独死じゃ……と頭をよぎったが、スンスンと臭いをかいでも死臭はしない。以前に一度、部屋で孤独死があって後始末するのに大変な思いをした
部屋に入ると、分厚いカーテンで閉め切られ、電気もつけず、昼間だというのにまるで学校の視聴覚室のように暗い
部屋はたった2部屋しかなく、隠れる場所なんてない
実際、住人は目の前の部屋に居るようだ
テレビの電源を付け、夏だというのに頭から布団をかぶっているようだ
クーラーは付けていないようだが、何故か肌寒さを感じるくらいに涼しい
「居るなら返事くらいしてよ。家賃、払ってくれるんだろうね?」
声を掛けると、布団をかぶったままこちらを向く。その姿は、やせこけて隈がひどく、青白い顔をしていた。結構太めの男性だったはずだが、今はがりがりだ
「ど、どうしたんだい?」
「……やっと……でてってくれた……」
彼はそれだけ言うと、のそのそと布団から出てきた。この3か月、部屋から出ていないのか、もう一つの部屋にはカップ麺の容器が、文字通り山になっていた
「誰かがドアを開けるまで……ずっとここに居たんだ……」
「何がだい?」
「管理人さんには見えなかった……? それなら見えないほうが良かったよ……。家賃は払うから……。ATMでお金を下ろしに行ってくるから待っててほしい……」
彼は棚からキャッシュカードを取り出すと、財布に入れた
彼は靴を履いたままだった。そのまま部屋を出ていく
「待っててくれって言われてもな……」
そこまで暇じゃなかったが、せっかく家賃を払ってくれるというのだから待つことにした
5分くらい待っただろうか。部屋がどんどん寒くなってきた
「クーラーは……やっぱりついてないよな。閉め切っているからか?」
勝手とは思ったが、カーテンを開けることにした
「ぎゃー!!」
窓に、逆さにぶら下がった女性が叫んだ。一瞬あっけにとられていたが、女性には見覚えがあった。以前、上の部屋で孤独死していた女性だ……
俺はそれで納得した。しかし、この部屋の彼には内緒にしておこう
俺はATMでお金を下ろしてきた彼から家賃を受け取ると、その足でお寺におはらいを頼みに行った
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