第459話 出所
「さあ、今日からここがあなたの住む場所ですよ」
「すいません、何から何まで……」
「いえいえ、大変なのは分かっていますから」
「ありがとうございます」
管理人が部屋を出るまで頭を下げ続ける。俺は昔、飲酒運転で子供2人をひき殺してしまい、10年の服役を終え出所してきた
会社は当然クビだし、家族も愛想を尽かせて絶縁状を送り付けてきていた。当時付き合っていた彼女はすでに居場所も分からない
「はぁ……。これからどうするかな……」
刑務所の中で働いていた分、多少の貯蓄はあるが、賠償金もある
働こうにも前科者を雇う人なんてほとんどいないだろうし、生活保護を受けられるかどうかもまだ分からない
そんな俺に、出所直前になって弁護士を名乗る人物がやってきて、この物件を紹介された
少し他の家から離れているが、立派な一軒家だ。壁も厚く頑丈で、俺が入る前に塗りなおしたのか、内装も綺麗だ
ただ、出入り口は玄関の1カ所のみで、風呂やリビングなどの窓には柵がされていた
(まるで、刑務所みたいだな……)
一応、管理人からは前の住人の趣味と聞いていたが、俺にはリフォームする金も無いのでこのまま過ごすしか無いだろう
家具は無いが、生活必需品は置いてあるし、水や電気も通っている。冷蔵庫の中には数日分の食料まで用意されていたから、しばらくは外出する必要も無いだろうし、今は誰とも顔を合わせたくない
さて、今日はもう寝るかな
次の日、ピンポーン……とチャイムがあった。あいにくとインターフォンは無いので玄関を開ける
「あなた方は……この度は、まことに申し訳ありませんでした」
玄関に居たのは、俺が交通事故で殺してしまった子供たちの両親と管理人だった
「いえ、反省しているのならいいんですよ……。それより、少し話できませんか?」
俺は中に招き入れた。正直、居心地は悪かったがそうとも言っていられない
「まだ、お茶くらいしか無くて……」
「いやいや、押しかけたのは私達の方なので、お構いなく」
「それで、話と言うのは……?」
「いえね。うちの子供たちを殺しておきながら、あっさりと出所したと聞いて……納得いかないんですよ」
「すいません……」
事実なので何も言い返すことはできない。何とか少しでも溜飲を下げてもらおうと謝り倒す
「謝ってもらっても娘たちが帰ってくるわけじゃないので、もう謝らなくて結構です」
「しかし……本当にすいませんでした」
「だから、謝らなくて結構ですって。だって、あなたには娘と同じ目に遭ってもらうんですから」
「……え?」
女性がいつの間にか俺の後ろに立っていて、何かを首筋に押し当てた
「がっ!」
首にバチッと電気が走ると、俺は慌てて離れる
「あれ? あんまり電気が効かないんですね」
女性が持っていたのはスタンガンだった
「これは、どういうことですか!」
俺は管理人を睨みつける。どう見ても首謀者は管理人だ
「我々は、殺人などで服役した犯罪者に、復讐の機会を与えているんですよ。だって、人の命を奪っておいて、たった十数年でのうのうと生きていけるんですよ? 被害者にとってどれだけつらいことか」
「それは……しかし、法律では――」
「うるさいな。法律で裁けないからこうやって復讐のチャンスを作ってるんですよ」
「くそ、だから窓から逃げられないように……壁も防音にしているのか」
「ついでに、玄関も開きませんよ? 諦めて被害者たちの報いを受けなさい」
そうか、だから内装も綺麗なのか……犯罪者の血で汚れるから……
俺は被害者の父親のナイフを腹に受けて、床に倒れ伏す
そこに、被害者の母親が俺の頭に金槌を振り下ろした
「死ね、死ねっ! 子供たちの恨みよ!」
何度殴られたか分からないが、意識が遠くなってきた……俺が目覚める事はもう二度と無いだろう
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます