第455話 ギャルゲ?

「ねぇ、そこにいるんでしょう?」




何でこんなことになったんだ……




俺は物陰に隠れながら、見つからないように息を殺す




しかし、心臓の鼓動は自分の居場所を教えるかのようにバクバクと鳴っている




実際に心臓の音を聞けるほど近くに居るなら、どちらにしろ居場所はバレているだろうが




「どこへ行ったの? 逃げないでよぉ」




ペタリ、ペタリと素足で歩く音




なぜこんなことになったのかと言うと――




「なあ、このゲーム知ってるか?」




友達が取り出したのはパッケージに可愛い女の子が印刷されている1枚のディスクだった




「何だそれ? ギャルゲか?」




「ギャルゲと言えばギャルゲだけど、これはリアルの女の子が対話してくれるゲームだ」




「はぁ? それのどこがおもしろいんだ?」




「まあ、やってみろって」




そう言って押し付けられたゲームを見ながら、とりあえず「やったけど俺には合わなかったわ」と理由付けするために少しだけやってみることにした




ゲームを起動すると、どっかでみたことがあるようなオープニングが始まり、スタートを押すと8人の女の子の顔が表示された




「これで選んだら、格闘ゲームでした――とかはないよな」




自分の好みに一番近い、明るい茶髪でショートカットの子を選んだ




「選んでくれてありがとう。それじゃあ、キミの名前を聞かせて」




表示された名前の欄に、自分の名前を入れた。今思うと、これがまず第一の失敗だった




「へぇ。コウヘイって言うんだ。じゃあ、コウ君って呼んでいいかな?」




「……すげーな」




まるで本当に彼女が出来たような、スムーズな会話。画面をみながらすぐ隣に彼女が座っている様な気、すらする




いつしか、俺はこのゲームに夢中になっていた




「そろそろゲーム返してくれない?」




「はあ? いいじゃん、まだ貸してくれよ」




「……お前、マジになってないよな?」




「んなわけないって。あと少しでクリアなんだよ」




「じゃあ、クリアしたらすぐ返せよ」




俺はここで選択肢を誤っていたらしい。友達が思っていたものと、俺が実際にやっているゲームは全然別物だったという事に




いつもどおり起動すると「おかえりなさい。今日は何をする?」と、まるで付き合っているかのような反応……いや、実際付き合っているのだ




「今日、友達にこのゲーム返してって言われてさぁ」




そう言った瞬間、彼女の声が変わった




「へぇ……あなたも私を捨てるんだ? ねえ、コウくん?」




「いやいや、ゲームを返すだけだって。いや、新しいゲームを買ってそっちを返すか」




データが消えると思ってそう言ったのだが、それがさらに彼女の地雷を踏んだ




「新しい彼女を作るのね……? そうなのね……?」




「そんな事言ってないって」




「コウくん。そっちにいくね」




「え? ちょっと……」




ゲームにしてはリアルだと思っていたが、まさか本当に……? ゲーム画面はそのままに、音声だけが無くなった




今は夜の12時。家には誰も居ない




ピンポーン……




こんな時間に尋ねてくる人なんて居ないはずだ……




俺はカーテンの隙間からそっと玄関を見てみる




すると、ショートカットで茶髪の女の子が見えた




ピンポーン……




出るべきか出ないべきか……迷っている間に勝手に玄関のどあを開けられた




(嘘だ! 鍵をかけていたのに!)




俺はとっさに積んである座布団の中に隠れた




「ねぇ。いるんでしょう? 姿を見せてよ」




ギシ、ギシ、とゆっくりとフローリングを歩く音がする




ぺたり、ぺたりと何か湿った足音がする




ぺたりべたりぺたりべたり




手と足を使って四足歩行している音……それが家中を這いまわる




俺は恐怖で今にも叫びだしそうだった。しかし、叫んでしまえば居場所が見つかってしまう




俺は息を殺し、音を立てないように玄関の方へ




すると、2階からダダダダダッと高速で降りてくる音がした




「ヒッ」




俺は恐怖のあまり走って音を立ててしまった




「そこにいたのねぇ」




2階で見つけて来たのか、手にはハサミを持っていた




「た、助けてくれ!」




俺は靴を履く余裕も無いまま外へ飛び出す




「ねぇ、待ってよ! 逃げないでよ!」




そう言って追いかけてくる彼女




この時間では、ほとんどの家の玄関は閉まっているだろうし、寝ているだろう




なんとか近くの交番に行ければ……




俺は一旦彼女をやり過ごそうと、隣の家の庭に隠れる




ガチャリと玄関が開き、ペタリペタリと素足で歩く音がした




「ねぇ、どこへ逃げたのぉ」




俺から彼女の姿が見えないから、あっちからも見えないはずだ




しかし、彼女は俺の居場所が分かるかのようにゆっくりと近づいてくる




「見つけたぁ、コウくん」




俺はなぜこんなことになったのか分からないまま、ハサミを振り上げる彼女を見上げていた

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