第454話 急須
「物は大切にしないといけないよ。大事に使われた道具には魂が宿るんだ」
今年90歳になる祖母に言われた言葉だ
そう言う祖母が大切にする急須があった
今は亡き祖父と一緒に毎日使っていたらしい
祖父が居なくなってからめっきり使わなくなったけれど大切にしているみたいだ
しかし、それを私の不注意で落として割ってしまった
祖父の形見とも言えるもので、捨てるに捨てれず、欠片を全て集めて自分の部屋の棚の奥に隠した
めっきり使わなくなったから、そのうちどこにしまったか忘れるか、祖母が寿命を迎える方が早いかもしれないとドキドキしている
そんなある日
「私の急須、どこに行ったかな? 最近物忘れが激しくてねぇ」
そう祖母と母が話をしているのを聞いた
私は心の中で「ヤバイ、怒られる」と思った
考えた末、私は祖母に謝ることにした
「ごめんなさい……不注意で割ってしまって……」
「おやおや。破片でけがなんかしなかったかい?」
祖母の優しい言葉に涙が出た。私は自分の部屋の棚の奥にしまった欠片を袋ごとひっぱりだす
そして、その欠片を祖母に渡した
「ありがとうね。こんなもんでもおじいさんとの思い出がいっぱい詰まっているからねぇ。今は使わないから割れれても気にしないよ」
そう言って祖母は私の頭を撫でてくれた。もうしわけなさでいっぱいになった
そんな祖母が入院した。病気というよりも老衰なので治る見込みはないとのこと
「……最後に、あの急須でお茶が飲みたいねぇ……」
「おばあちゃん、あれはもう割れたでしょ……」
「そうだったかい? 新しくお爺さんが用意してたと思うだけどねぇ」
「……おじいちゃんはもう……」
母は祖母の相手をしているが、なんて答えればいいのか困っているようだ
今度、割れた急須を持ってこよう……
そう思って、家に帰った時に祖母の部屋の棚を覗く。確かここにしまっていたはずだ
「あれ?」
全く同じ急須が、割れる前の状態で置いてあった。ひびすらないので接着剤とかで直したわけでは無さそうだ
しかし、こんな古い急須を新しく買ってくるわけ無いし……
混乱したけれど、これで祖母は急須でお茶が飲める。そう思って病院へ向かった
すると、祖母は寝ていた。そっと急須を枕の横に置く
「お爺さん、お茶を入れましたよ」
祖母はそんな寝言をつぶやいた
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