第448話 トンネルで

肝試しをすることになった




だから夏は嫌いなんだ




最近は廃校へ行ってもセキュリティは生きているので、不法侵入で見つかるやつが多々いるため、絶対にセキュリティが無いであろう廃トンネルへ向かった




そのトンネル自体は、何か事故が遭って……というわけでなく、隣に新しいトンネルが出来たから使われなくなっただけだ




当然、ここで死んだやつは居ない……はずだ




ただ、車を停める場所は近くに無いので、高速道路手前の駐車スペースに置くことにした




そこから3kmほど歩くことになるが、その間に怖い話をして雰囲気を高める事になった




あること無い事、それこそそのトンネルであった(ことになった)事故の話や、幽霊が出た(ことになった)という話、関係ないけど山に遺棄された死体が歩いた話などなど、ゆっくりと歩いて40分ほどだったので結構話をした




で、問題のトンネルについたのだが……




「……マジでここの中に入るのか?」




電気は当然来ていないので真っ暗なのはいいとして、地面がまるで沼の様に見えるような水たまりになっていた




相当ほったらかしになっていたのか、へんな草まで生えて滑りやすい




長靴でも履いていない限り入りたくない




「まあ、せっかくここまで歩いてきたんだし、何もなくまた1時間弱歩くのは嫌だろ?」




「道中の怪談話で結構盛り上がったからなぁ……」




トンネルの向こう側は見えない。なぜなら、明かりが無いから




3人でじゃんけんをして、負けたやつが先頭、勝った奴が真ん中だ




前のやつは水たまりの安全性を、後ろのやつは誰かが憑いて来るかもしれないという恐怖を受け持つ係だ




で、俺は……後ろだった




前のやつは、時々少し深くなる水たまりに足を取られて思ったより進みが遅い




真ん中のやつは、前のやつの動きを見て修正し、水たまりの深い場所を避ける




で、俺はさらにそれを見て安全ならそのままで、2人がダメなら少し改善して歩いたので案外いい場所なのかもしれない




しかし、後ろから自転車が来たようで、動きが早いライトが近づいてくる




(こんな場所、通るやつもいるんだな……)




自分の事は棚に上げて、新しいトンネルを通ればいいのに、と思って避けた




車が1台通ればいいくらいの狭さだから、水をはねられても困るからだ




体を壁に寄せ、手をつくとネチャッとした感触を受けた




「げっ、壁もぐちゃぐちゃじゃねーか……」




「ぷっ、何やってんだよ。地面がこれだけ濡れてるんだから壁も濡れてるに決まってるじゃねーか」




「……お前らはいいよな、俺はもう靴がぐしゃぐしゃでもう水たまりを避けるのを諦めようかと思ってるぜ」




なんて話をして歩いていた……あれ?




後ろを見ると、ライトが見えない




「なあ、自転車って通っていったか?」




「あ? んなもん通ってるはず無いだろ。この水たまりだぜ? 通ったらわかるっつうの」




確かに、言われる通り自転車が通れば水の音がするはずだ




しかし、その音もしなかった……




俺はゾワッとして




「もう戻ろうぜ。どうせトンネルを抜けても何も無いだろ?」




「もう半分も過ぎたんだから、向こうに出て新しいトンネルで帰ろうぜ」




友人の言う事はもっともだ。来た道の方が長いなら、トンネルを抜けたほうが早いだろう




それでもいいか……そう思った時、トンネルの先からさっきのライトが見えた




「うわぁぁあ!」




俺は嫌な予感がして、ダッシュで来た道を戻る




「おい、ちょっと!」




「どこ行くんだよ!」




俺はわき目も振らずに走った




友人たちはそれを怪訝そうに見ながら、先に進むことにしたらしい




幸い、トンネルを出る所まで何もなかった




俺は新しいトンネルの出口で待っていると、友人2人が歩いてきた




「急にどうしたんだよ? 結局何もなかったぞ」




「光は?! ライトは見えなかったか?」




「んなもん見てねーよ。車のライトでも反射したんじゃね?」




何も無かったならいいけど……そう思ってまた3kmの道を戻る




ただ、その帰り道の足音は4人分あった

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