第396話 飼い猫

私には飼い猫が居た




自由奔放で、好きなときに出かけ、腹が減ると家に帰ってきて飯を食い、昼寝し、暇になるとまた出かける




そうして10年も一緒に居ただろうか




ある朝、私が海外への出張へ行く日だったのだが、その日に限って飼い猫が私の腹の上で寝ていた




「ったく、普段は嫌がるくせに、こういう日に限って……」




私は文句をいいつつも、猫を起こさないようにゆっくりと起き上がったつもりだったが、急に起きると、私の腕をひっかいてきた




「痛っ、っつー、なんてことをしてくれるんだ!」




私は飼い猫を怒鳴りつけ、傷を見る。傷は結構深く、血が垂れてきたので手当てをすることにした




止血まで時間が掛かりそうだったので、早めに出て乗るつもりだった列車を、一本遅らせることにした。幸い、グリーン席ではない




私が駅に着くと、なにやら騒がしい。聞くと、急に20代の若者が列車に飛び込んだらしい。そんなそぶりが全くなかったので、誰も引き留めることも出来ず、亡くなってしまったらしい




列車はしばらく動かないという事で、タクシーで空港に向かうことにした




空港に着くと、何か寒気がする。すると、見知らぬ女性が話しかけてきた




「あんた、悪いことは言わないから引き返しな。そのまま海外へ行くと、死ぬことになるよ。せめて、もう1日待つ事だね」




そんな事で仕事を放りだせるか! 予約も取ってあるんだぞ! 普段ならばそう言っただろうが、その時は何故か私もそんな気がしたため、会社に無理を言って出張を1日遅らせてもらった。幸い、向こうの取引先も理解がある人だったらしい




家に帰ると、飼い猫が随分と弱っていた。出張のために、隣の家に預けたはずなのに……




すると、その日の夜、飼い猫はあっさりと死んでしまった




悲しくはあるが、それで延ばした出張をさらに延ばすわけにはいかない。簡単に墓を作り、手を合わせた




次の日、すこぶる調子が良かった。何もかもうまくいく……そんな気分だった




後ろから、ニャーッと飼い猫の声が聞こえた気がした

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