第392話 砂浜
ザッザッザッザッ
気が付くと俺は、砂浜を歩いていた
上を見上げると、綺麗な星空が見える
前を向くと、真っ暗な海
後ろを向くと、街の明かりはほとんど消えている。恐らく、夜の10時は過ぎているのだろう
なぜこんなところを歩いているのか、全く記憶にない
下を向くと、俺が歩いてきたのであろう足跡があるだけだ。俺は記憶を手繰るように、その足跡を辿ることにした
どこから来たのか分からない。自分の住所や名前は憶えているが、財布が無いからタクシーを拾えないし、携帯が無いから連絡もつけれない
場所が分からないからどこへ向かえば帰れるのか分からない。最悪、無賃乗車してでも……
暗い砂浜で、なんとか足跡を辿っていくと、海岸から出るどころか、海の横の洞窟に続いていた
「なんでこんなところに……? いや、ここから俺は出てきたんだろうから……」
ボートでもあるのか? そう思いながら洞窟に入る。ちょうど雲が晴れ、月明かりでなんとか洞窟内が見えた
すると、そこには祠の様なものがあった。それも、少し傾いた状態で
足跡は、ピタリとそこで途切れている
「俺の足跡じゃ無かったのか……?」
俺の足跡だとすれば、祠から出たことになるが、そんなことは絶対に無いだろう。なぜなら、人間が入れるような大きさじゃないからだ
俺の体は、俺の意思を無視して祠に手をかけ、まっすぐに直す。そして、真っすぐかどうかを見るように数歩あとずさる
「――ありがとう」
俺のすぐ後ろから、女性とも男性ともつかない声が聞こえ、足跡だけが俺を追い抜き、祠に向かって行った
俺は何故か、それが海で亡くなった誰か……という事が分かった。俺は祠に手を合わせて洞窟を出た
幸い、記憶が戻っていた
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