第391話 せんべい

保険の契約にお客様の家へ伺った時の事だ




お世辞にもお金があるとは言えない家で、ペットの犬などを飼っているが、障子などは破れたままになっている様な家だ




加入するのは生命保険だから、別に家はぼろくてもいいのだが……




「それでは、重要確認事項から……」




私が男性へ説明していた時、女性がお茶とせんべいを出してくれた




「ありがとうございます」




私は女性にお礼を言い、保険の説明を続ける。中身の説明に3分くらい話したとき




「お茶が冷めてしまうよ。せんべいもどうぞ」




「あ、どうも……」




正直、綺麗とはいいがたいこの家の状況で、口にするのもためらわれたが、これだけ進められて無視するわけにもいかない。機嫌を損ねたら、契約してくれないかもしれないからだ




「いただきます」




私は一口だけお茶を飲む。さっぱりとした煎茶で、思ったより美味しかった。口も湿らしたし、さて続きを……と思った時




「このせんべいも、おいしんですよ」




男性は、自らせんべいを食べる。どうぞと進められ、こちらも口にしないわけにはいかない気がした




せんべいを手に取り、じっと見る。とりあえず、賞味期限的なものは大丈夫だろう。この黒いつぶつぶは胡椒かな? 一口かじる




「どうですか、このコオロギせんべいは。健康にいいんですよ」




私はピタリと動きを止める。なんてものを出すんだ! と思ったが、すでに一口口に入れてしまっている




吐き出すわけにもいかず、ごくりと飲み込むと、意外とエビセンのようで美味しかった……




この話を後輩にしたところ、後輩はすごく嫌な顔をして




「俺も経験ありますよ、汚い家で出た食い物を口にしたら、中で小さなゴキブリが死んでいました。ちょびっとかじっちまいましたわ」




それとはまた別の話だろうが……後輩が言うには、味自体はまずくはなかったらしい……おえっ

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