第354話 笑う女

遠い親戚の通夜に行った時の事だ




遠い親戚であるため、受付などの仕事は回ってこなかった




普通の参加者と同様に参列するだけだ




親戚の家は、昔の農家の家で、部屋数が多いうえに大きな部屋は、襖を開ければ30人は優に入れる




なので、家の中で通夜を行う事になっていた




農家ということもあり、集落の皆が集まっているのだろう、結構ぎゅうぎゅう詰めになってきた




俺は親戚という扱いではないが、前の方に座ることになっていた




お寺さんが来られ、通夜が始まる




お経が読み上げられる中、後ろの方で女性の笑い声がした




「ふふふっ、ふふっ」




押し殺したような声だったので、不謹慎だとは思ったが、誰も注意をしないし、俺もわざわざ注意しに行くほどの度胸は無かった




「くくくっ、あははっ」




誰も注意しないことをいいことに、笑い声が段々と大きくなる。さすがにおかしいだろと思い、少し後ろを向くと、列の後ろの方で赤い服を着た女が立っていた




どう見ても通夜の参列者ではないだろう




俺は一気に汗の様なものがでてきた




すると「ふふっ、あはっ」と笑い声が近づいてくる




ここまでくると、この声は俺にしか聞こえていないのだろうと思う




女が俺の後ろに立つ気配がする




「ねえ、一緒に逝きましょうよ」




そう言われた瞬間、ふっと俺の意識が遠ざかった




目を覚ますと、すでに通夜は終わっており隣の部屋に寝かされていたようだ




「どうしたんだい? 急に気を失ってびっくりしたよ」




「すいません、赤い服の女性が……」




そう言ったとき、この部屋に飾ってある写真が目に入った。そこに写っていたのは、さっき見た女性だった


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る