第352話 後日談(長文)

私は、あの事があってからアルバイトを即座にやめた。友達は結局その女性が見えていなかったらしく、一人で引き続きアルバイトを続けるようだ




予定が狂ってしまい、いまから新規のアルバイトを探すのもなぁと思っていたところ、映画館の清掃をしていた友達が急遽、暇なら手伝ってほしいと言ってきたのだ




夏休みのせいか、ほぼ満員の映画館。その上、子供用の映画の後は床やシートが汚れている確率が高く、人数を増やして対応する事になり、急ぎという事もあって関係者の知り合いですぐ来れる人という条件で募集し、見事私に白羽の矢が立ったのだ




「ごめんね、何か用事があったなら、後で埋め合わせをするから」




「ううん、ちょうど前のバイトを止めたところだったから大丈夫だよ」




こちらは終日という事もあり、朝から夕方まで忙しかった。子供用の時だけ、という事もあり、夕方までには終わる




スクリーンが3つほどあって、時間差で始まり順次清掃していくが、30分程暇な時間があるので、思ったよりきついという事は無い




子供用の映画ではない時も当然あるが、そちらのときはあまり汚れている事もなく、慌てることなく終わらせられる




しかし、電気系統のトラブルか、急に暗くなる。さらに、落ち葉を踏むような音もする。ミスで何かの映画が始まった?




「ねぇ……」




友達に話しかけようとして、異常に静かなのに気が付いた。急に明かりが消えても誰も何も言わず、落ち葉の踏む音だけが館内に反響する




目が慣れていないせいで本当に何も見えない。友達がさっきまで居た方に歩いて行く。すると、何かがガシッと足首を掴んだ




「きゃーっ!」




思いっきり目をつぶって叫ぶ




「きゃぁっ!? 急にどうしたのよ、びっくりさせないでよ!」




目を開けると、さっきまでの明るい館内だ。近くに居た友達は、私が急に叫んだのでびっくりしたみたい。他のスタッフも何事かとこちらを見る




「あっ、ゴキブリが足元を?」




私はとっさに嘘をついた。おかしな人と思われたくないし、さっきあったことを信じてもらえるとも思わない。実際、お化け屋敷で女性が見えなかった友達は、気のせいだよと言って取り合ってくれなかったし




「げっ、マジ? あとで殺虫スプレーまいとかないと」




友達はゴキブリが居たというのを信じてくれたらしく、他のスタッフに言いに行ったみたいだ。映画鑑賞中にゴキブリが来るというのもある意味恐怖ではあるが、さっきの事に比べればぜんぜん怖くない




これはもう、私に憑いてきているとしか思えない。私は今日のアルバイトを早退し、お寺に向かう事にする




「ま、ゴキブリが苦手じゃしょうがないよね。今日は任せて。明日までには駆除しておくよ」




と、友達は殺虫スプレーを持ちながら納得してくれた




私は、スマホで近くのお寺を調べる。丁度住職がいたので、お祓いやお札を売っていないかと尋ねる




「それならば、お祓いをしてあげよう」




住職は心よく引き受けてくれた。お寺の中で住職が朗々と読み上げる。すると、あの薄着の女性がスッと廊下から現れる。私は、金縛りになったように動けず、声も出ない




女性は、ジッと座っている住職を見下ろす




しばらくして、お祓いが終わる




「もう大丈夫ですよ」




にっこりと住職はそう言ってくれたが、女性はジッと住職を見つめたままそこに居る。住職には見えないようだ




しかし、効果はあったようで、それ以来、薄着の女性を見ることはなくなった。お寺にまだ居るのかどうかは見に行っていないので分からない


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