第324話 すぐに引っ越す部屋

一人暮らしのアパートの一室




近くの大学に通う女子大生は、県外から引っ越してきたばかりである




大学近くのアパートや、貸し賃の安い物件は早い者勝ちで埋まっており、要領のいいひとは卒業予定の学生から引き継いだりしていた




そんな中、そこまでお金に余裕がないくせに住む場所に着いてあまり考えていなかった加奈(仮名)は、たまたま見つけたこの一室を借りることになった。アパートの2階で、すぐ隣に非常階段がある一番端っこの部屋だ




聞くと、大体1か月ほどすると引っ越していくらしい。それも、家電などかさばるものは置いていき、持てる荷物だけ持って出て行くそうだ




家電を処分するのにも金がかかるため、使えるものはそのまま使ってもいいと言われた




見ると、確かにほとんど使われていない洗濯機や冷蔵庫、電子レンジなどがあって、住む場所どころか住んだ後の事も考えていなかった加奈にとっては願ったりかなったりだった




一応、隣に住むおばさんに引っ越し祝いを渡すついでに話しを聞くが、何故みんな出て行くのか分からないそうだ




おばさんはここに住んで10年くらいたつらしいが、その間に自殺した人も孤独死した人も居ないそうだ




加奈はもともと霊感も無い一般人だったため、その話を聞いて安心して住むことにした




住み始めてから10日目


夜中の12時、さっそく出たレポートの宿題をしていると、アスファルトにコツッコツッとハイヒールを履いたような音がした




こんな夜中に? と思ったが、その日はそれだけだった




12日目


夜中の12時、TVを見ているとコツッコツッ、カンと階段を1段登った音がした。しかし、その後はテレビの音で聞こえなかったのか、気にすることなく終わった




15日目


夜中の12時、友達と遊んで遅くなり、お風呂に入っていると部屋の前をコツコツと歩く音がした。風呂から出る頃にはしなくなっていたが、気になったので隣のおばさんに聞いてみたが、その時間は熟睡していたため気が付かなかったという事だった




20日目


夜中の12時、玄関のドアノブをガチャガチャと捻る音がした。この日は寝ていたが、その音で目が覚め、じっと聞き耳を立てていたが、それ以上何もなかった。次の日から、ドアのチェーンもかけることにした




25日目


夜中の12時、玄関の鍵がガチャリと開く音がし、ガチャンとチェーンロックが伸びる音がして目が覚めた


「誰!」


そう言うと、ガチャンとドアが閉まって物音がしなくなった




私はとうとう怖くなり、今日はチェーンすらはずされるかもしれないとその部屋に帰る事が出来なくなった




しかし、大学の友達が防犯カメラを黙って設置してくれたらしい。次の日、そのカメラを回収し、友達の家で再生する。すると、なんと隣のおばさんが夜中の12時に私の部屋の前に立っているのが映っていた


「まさか、隣のおばさんが犯人だったなんて……」


「警察に相談した方がいいよ」


友達にそう言われ、その気になったところで画面に変化が現れる。おばさんは私の家のドアに触れることなく、カメラに近づくと「お前が先か」と言ってブツリと画面が消える




ガチャリと友達の家の玄関が開く音がした

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