第314話 だるまさんがころんだ

「だーるまさんがーこーろんだ」




「え?」




ここは旧校舎。それも夜。俺と隆、瑠衣の3人で肝試しに来た




1~2階は何もなく、3階建ての校舎の、3階の一番奥に着いたらただ帰ってくるだけの予定だった




それが、3階奥の非常階段の扉にタッチして帰ろうとした瞬間、少女の声がした




俺達は「だるまさんがころんだ」の後、何が起こったか分からず、体が硬直して動く事が出来なかった。しばらくしてまた




「だぁるまさんがーこーろんだー」




と少女の声がした




「うわぁぁぁぁぁぁぁ」




ガタイはいいが実は小心者の隆が、逃げ出した




「動いたー」




そう声がした瞬間、隆のひざ下が千切れた




「いてぇ、いてぇよおぉ」




「きゃあぁぁあぁ!」




叫んではいたが、動いていなかったため、俺と瑠衣に被害は無かったが、隆を助けに行く事も出来ない




「だーるまさんがころんだ」




今度は少し早口で声が聞こえ、またしても恐怖で動けなかった俺と瑠衣と違い、痛みに転げている隆は違った




「動いたー」




「ぎゃあああ!」




今度は隆の両腕が千切れた。ここまで来たら俺と瑠衣もこの声のルールに気づいた




「だーるま……」




「今だ、逃げろ!」




最後まで言い切る前に俺と瑠衣は走り出す。隆には悪いが、今は逃げる事しか頭にない




「さんがーこー……」




「とまれ!」




「ろんだ」




少し余裕を持って止まる。ぎりぎりで止まって止まりきれないとか言うミスは犯したくない




しかし、その瞬間瑠衣の足元をネズミが走った




「きゃっ」




それを避けるために反射的に足を上げた瑠衣




「2人動いたー」




後ろを振り向けない為、後ろで何かが千切れた音がした後静かになり、隣の瑠衣の左腕が千切れた




「痛い! ぐぅぅ!」




瑠衣はそれでも動かないように我慢した




「だー……」




俺は嫌な予感がして動かなかったが、瑠衣は痛みにより冷静さを失い、急いで走った」




「ルマサンガコロンダ」




まるで高速再生の様な音声。瑠衣は案の定、急に止まれずにコケる




「動いたー」




派手に転んだせいかどうかはわからないが、隆と違い一気に瑠衣の首が千切れた。そこから俺はほとんど動けなかった




「だーるーまーさんがーコロンダ」




「ダルマサンガこーろんだー」




「ダルマサンガコロンダ」




慎重に慎重を重ね、声1回につき一歩ずつだけ歩く。それでも高速再生の時はギリギリの様な気がしたが、それを数回やって分かったのは、一歩だけなら高速再生でも間に合うという事だった




「ダルマサンガコロンダ」




「だぁーるぅーまぁーさぁーんーがぁーこぉーろぉーんーだぁーーー」




フェイントをかけるためか、今まで以上に緩急をつけ始めた声。それに騙されずに一歩ずつしか歩かない俺




「ダルマサンガコロンダ」




「ダルマサンガコロンダ」




しびれをきらしたのか、とうとうほとんど高速再生になる。このままいけば一歩ずつではあるが確実に歩いているので出口までたどり着けるはずだが、俺に異変が襲う




「やべぇ、トイレにいきてぇ」




我慢できなくなった俺の丁度横はトイレだった。次の「だるまさんがころんだ」の時にトイレに入る。トイレに入ったからか、声が聞こえなくなった。念のため1分ではあるがトイレを我慢して動かずにいたが、どうやらトイレの中では「だるまさんがころんだ」は無いようだ




「助かった……」




俺は個室のドアを開けると、「ダルマサンガコロンダ」と言う大きな少女の顔があった




「動いたー」




大きな顔は、うれしそうにそう言った後、消えた

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