第313話 駅のホームで

連日の猛暑で酷使していたエアコンが、とうとう暑さに負けて壊れた




最悪な事に、俺の借りているアパートは南向きで夏はエアコン無しじゃ過ごせない




「仕方ない、修理が終わるまで出かけるか」




俺は先輩に誘われていたアルバイトを思い出し、海の家のアルバイトに行くことにした




「先輩、まだアルバイト募集していますか?」




「おう、丁度熱中症で一人倒れたところで人手が足りなかったんだ。すぐに入ってくれ」




「分かりました」




俺の家から海の家までは電車で3駅。念のため俺も熱中症対策はしておこう




車を持っていない俺は電車を使って浜辺に向かうことにした




「電車おせーな」




日本にしてはめずらしく、時刻を過ぎても電車が来ない。早く行かなければと焦っているときにこれだ、ついてない




気が付くと、すぐ横に女性が立っていた。白いワンピースで、麦わら帽子をかぶっていて表情は陰になって分からないが、ロングの黒髪だけで美女だと分かる




「電車遅いですね。どこへ行くんですか?」




どうせ暇なのと、彼女が欲しかったのでワンチャン狙いで声を掛けた。しかし、こっちを向きもしない。しかし、無視されることも想定内だ




「暑いっすね。俺はちなみに浜へ行くところなんですよ」




勝手に話を進めると、女性はスッと指を線路のほうに向けた




指につられて見ると、すでに電車が停まっており、今にも発車しそうだ




「やべ、先輩に怒られる!」




彼女よりも先輩の怒りを受けたくない方が上回り、電車に飛び乗る。あの子も乗るのかな? と期待してみるが、すでに姿は見えなかった




「あれ……?」




他の車両に乗ったのかと思ったけど、あんなに目立つ白いワンピースが見当たらない




電車のドアが閉まる寸前、電車とホームの狭い隙間から、女性の砕けた顔がニュッと生えてくるのが見えた

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