第304話 隙間から

私は始発の電車に乗る機会が多い




朝早く出社するため……ではなく単に飲みに出て終電を逃すので、始発で家に帰るからだが




そんな俺も終電前には帰るようになった。正確には、終電を逃したらタクシーで帰るのだ




本当は終電も嫌なのだが、今のところ始発だけが問題のようだからだ




俺はあの日も終電を逃し、どうせだからと始発1時間前まで店で飲んでいた




そして、千鳥足で駅に着いたものの始発までまだ30分もあった




ベンチに腰掛けて電車が来るまでひと眠りしようと目をつぶったのだと思う




気が付くと、電車が駅についていた




俺は慌てて電車に乗ろうとしたが、おかしなことにドアが閉まっている




「おーい、俺が乗ってないぞー、開けろー」




冷静な頭なら無駄だと考えるが、自分で言うのもなんだが酔っ払いの思考回路はよくわからん




俺は確か、ドアを叩いていたと思う。すると、少しだけドアが開いたのだ




「もっと開けろー、乗れないじゃないか!」




俺は少しだけ開いたドアの隙間から何とか乗り込もうと顔を近づけた。今思うと、その隙間は5cmくらいだったと思うので、絶対に通れないが




中を覗くと、頭が異様に大きい何かが居た




ボーリングのピンの上部分の方が大きい感じだと言えば伝わるだろうか?




2頭身が現実に居るならあいつの事だろうな




普通ならそこで冷静になって逃げるなりするのだろうが、あの日の俺は相当酔っていたのだろう




「おーい、そこのお前! 俺を引っ張って中に入れろ!」




俺はえらそうにその2頭身のやつに声を掛けた




すると、そいつは振り返り、一瞬でドアの隙間に ガンッ とそのでかい頭をぶつけて




「XXXXXX!」




よくわからない言葉を叫んだ




俺は酔いのせいか、そいつのせいか分からないが、気絶? 寝た? で目が覚めると、本当の始発電車が来ていた




俺はどうにも始発の電車が怖くなり、乗れなくなった




あいつはなんとなく、人身事故で死んだ奴の「何か」じゃないかと思う 

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