第305話 卒塔婆
「今日は本当についてねぇな」
俺は空き家に隠れながらそうつぶやいた
俺は自分で言うのもなんだが、不良だ
さっきまで仲間たちと墓場でバカ騒ぎをしていた
墓場は誰かが管理しているような大きなものでは無く、近くに民家の無い30~50の墓が並んでいるだけの場所だ
深夜の0時も越え、段々と話す話題も無くなり、そろそろ帰るかと言ったところで俺は座っていた墓石から降りようとしたところ、いつのまに服にひっかかっていたのか卒塔婆を折ってしまった
罰当たりな事をするつもりはなかったが、なんかかっこ悪くてワザと仲間には「へし折ってやったぜ」と言った
そして異変は仲間たちと別れてすぐに起こった
墓場から民家へ向かう途中に明かりの全くない場所がある
そこに黒い何かがうごめいているように見えた
普通であればネコか何かだと思ったであろうが、さっき卒塔婆を折ったせいもあって嫌な予感がしたのだ
「どうすんだよ……」
この道を行かなければ家に帰れない。まあ、最悪家に帰れなくても家族は心配なんかしちゃいないが、このまま嫌な予感がする場所を通って何かがあるほうが嫌だ
何かが何なのか分からないのが尚更だ
「おい、どうしたんだ?」
後ろから声を掛けてくる者が居た。まだ帰っていない仲間が居たのかとほっとして後ろを振り向く
「うわあ!」
そこには、真っ黒な人型の何かが口に当たる部分から何かを垂らしながら立っていた
俺はつきとばそうとしたが、そいつに実態が無いのか貫通してしまった
さっきの暗い中を通るよりはマシだと墓場の方へ向かって走る
すると、向かいからお坊さんの様なおじいさんが歩いてくるのが見えた
「助けてくれ!」
俺はその人にかけよる
「……胸騒ぎがして来てみれば、難儀なことになっておるのぉ」
おじいさんは小さな袋から塩を一つまみ取り出すと、俺の頭に振りかけた
「ほれ、あそこで霊が怒っておる。謝って来なさい」
俺は言われるがままじいさんの指した方を見ると、案の定さっき卒塔婆を折った墓だった
「……卒塔婆を折ってごめんなさい」
「違う。墓石に座ったことを怒っておるのじゃ」
「墓石に座ってごめんなさい」
俺は心底謝ると、嫌な気配が薄まった気がした
「これで墓の主は許してくれたみたいじゃな。しかし、卒塔婆の主は許してくれておらんの」
俺は後ろに何かの気配を感じたが、振り返ることはできなかった
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