第300話 弟が
俺には年の離れた弟がいる
いや、居たという方が正しい
なぜなら、弟は交通事故で死んだからだ
両親が仕事で忙しく、年が離れていたせいもあって、弟の面倒は俺がほとんど見ていた
弟はもうすぐ小学生、俺はもう中学1年で、弟にとってはおふくろの味が「俺の手料理」みたいなことになっている
当然、遊ぶのも俺が一緒なのが当たり前で、どこへ行くにしても後ろをちょこちょこと楽しそうについてくる
ある時、テストの点数が悪く、親に怒られて機嫌が悪かった時があった
親はそのまま買い物へ行き、俺と弟が留守番に残った
「にーちゃん、あそんでー」
「うるせえ、たまには一人で遊べよ」
俺は虫の居所が悪く、弟にそう怒鳴ってしまった
怒ること自体はたまにあるが、一人で遊べと言ったのは初めてかもしれない
弟はしょぼんとした顔で部屋を出て行った
俺はそのままふて寝した
目が覚めて時計を見ると、30分ほど寝ていたようだ
その時には怒りもおさまり、弟はどこで遊んでいるのか気になった
「おーい、どこだ?」
部屋で遊んでいるかと思ったけど居ない。ゲームをしているのかと下の部屋に行ったけど居ない
まさかと思い、玄関へ走ると、扉の鍵が開けられており、また弟の靴も無かった
そして、近くに救急車が来る音がした
弟は大型トラックに轢かれ、即死だったらしい
病院で上半身は原型をとどめていないからと、上半身に布がかけられ、片方だけ靴を履いた足だけが見えていた
親は当然怒りと悲しみでパニックだった。弟も一人で遊べと言って放置した俺を責めているだろうか
今日も俺の後ろをペタリ、ペタッ、ペタリ、ペタッと片足だけの靴の音を響かせてついてきている
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