第299話 雨宿り

傘を持たずに出かけていたら雨が降ってきた




ここは田舎道で、近くに家が一軒しか見当たらない




農家の家なのか、やけにデカくて古い家だ




秋の夕方という事もあり、あまり雨に濡れていたくないので雨宿りさせてもらうことにした




車庫はあるが、勝手に敷地内に居るわけにもいかず、声を掛けることにした




表札はかすれて読めなくなっており、インターフォンすらない




すりガラスになっている戸には鍵がかかっていなかった




「すいませーん、雨が降ってきたので雨宿りさせていただいてもよろしいですか?」




……しばらく待ったけど返事はない




「すいませーん」




もう一度声を掛け耳を澄ませてみたが、雨の音以外聞こえない




鍵をかけずに出かける……田舎ではよくある事だ。不用心というよりもここへ来るのは知り合いくらいで信頼関係があるのだろう。俺みたいなぶらりと来た県外人の事は考えられていないのだろう




「おいで」




「!! は、はい」




居ないと思っていたのに返事があったのでびっくりした。その声は若いようにも聞こえるし、年寄りの声にも聞こえるが、女性の声だと言うのは確かだ




「おじゃまします」




タオルでも貸してくれるのだろうか? と期待しつつ家に入る。ドアなどなく、部屋と部屋とはふすまで遮られている




声のした方へ向かったが、やはり何の物音もしない




「どこですか?」




声を掛けたが返事が無い。雨の暗さもある上に、古い建物なので嫌な気配を感じる




ふすまをあけて恐らく脱衣所の方だと思われる方向へ向かった。そこには洗濯物が干してあったからだ




ふと下を見ると、指輪が落ちていた。盗もうと思ったわけではなく、なんとなく拾ってみようと思っただけだ




しかし、少し持ち上がってすぐに抵抗があった




「ん? 何かがひっかかって……うわっ」




リングの部分に髪の毛が絡みつき、その髪の毛は床の隙間から生えていた




「おじゃましました!」




俺は指輪を放置して慌てて玄関に走り、くつもきちんとはかずに飛び出す。運よく、雨はもうあがっていた







「っていう出来事があったんだ」




「へぇ。その後誰かに会った?」




「なんで?」




「えっ? その指輪誰にもらったの?」




俺の指には気づかぬうちに あの指輪 がハマっていた

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