第298話 大食いチャレンジ
これは、飲食店でアルバイトをしていた時の話です
その飲食店は叔父の店で、お世辞にもはやっているとは言えない状態でした
バイトを雇う金も無く、俺に「忙しいときだけでいいから、暇なときは遊んでいていいから」と言うので手伝う事になりました
実際は忙しい時間などなく、ほとんど暇でしたが、その状態でバイト代をくれとも言えず、時給にして500円ほどにしかならなかったと思います
ある時、叔父は「よし、大食いチャレンジをやる!」と言い出しました
合計3kgにもなる特大カレー。店はラーメン屋なのに……
「カレーなら日持ちするから、チャレンジャーが居ない時も大丈夫だからな」
そうですか……
1時間以内に完食で5000円進呈、カレー代無料。チャレンジ料金は3000円。正直、話題性になればいいや程度の物だった
それがどこかで口コミにでもなったのか、ごくたまに大食いの人と、3000円で6人食えればいいやという学生が来るようになった。注文自体は可能だが、1人で食わないと当然完食扱いにはならない
しかし、1年もたたずにそんなにうまくもないカレーを食いに来る人もいなくなった
カランカラン
「いらっしゃい」
冬で雪が積もっていただろうか。扉を開けると同時に冷たい空気が店内に入り込んだのを感じたと思う。客は、髪がぼさぼさで冬にもかかわらず薄着1枚だけの30代後半くらいの女性だった。見ようによっては浮浪者に見える
「……カレーの大食いをお願いします」
見た目は細く、そこまで大食いに見えない女性が頼んだのにはびっくりしたが、注文された以上出さないわけには行かない
「1時間以内に完食でクリアだ。水は自由に飲んで構わん。それじゃあ、スタートだ」
叔父がそう言うと、女性はゆっくりとスプーンでカレーを掬い、飲み込む。次も掬い、飲み込む
パクパクパクパクとカレーが口に吸い込まれていく。このペースだと30分もかからずに完食しそうだが、このペースが続くわけない。なんだかんだで完食者は一人も出ていないからな
30分たち、女性は完食した
「ば、ばかな……。おめでとう、5000円だ」
「お金は要らない。もう一杯カレーをお願いします」
俺と叔父は1分間は呆けていたと思う。3kgのカレーをもう一杯だと? 失礼だとは思ったが、女性の体を見ると結構腹が膨れている
「わ、わかりました」
叔父は慌ててもう一杯カレーを持ってきた。その顔には「まじか?」と書いてある。俺もすでに見てただけで腹いっぱいなのに
女性は今度もパクパクパクパクとペースを落とさずに食べ終えた
「ごちそうさまでした」
女性はそう言って賞金を受け取らずに帰っていった
「……あれ、人間か?」
「さあ、わからないけどもう大食いチャレンジは止めた方がいいんじゃない?」
「そうだな……どこにも1回限りと書いてないからな」
それ以来、叔父は大食いチャレンジを止めた
数日後、近所で飼っていたらしい大きなメスのアオダイショウが逃げ出していたことを知ったが、関係あっただろうか
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