第292話 細い指

集落で会合があるという事で、私はおじいちゃんに着いて行った




家に居てもひまだったし、今日は両親も仕事で遅くなるので誰も居ない




会合は公民館であるという事で、外出する準備をした




そろそろ時間という事で公民館に向かう




「公民館って……これ?」




着いた場所は、今にも壊れそうな木造の古い公民館だった。広さは普通の家の2倍くらいありそうだけど




「そうじゃ。古いが、建て直しするにも金がかかるでな。まあ、今日はその建て直しについての会合じゃ」




玄関の靴箱に靴を入れ、一番広い会議室に使われている畳の部屋に行く。中にはすでに20人くらいの年寄りが集まっていた




むしろ、年寄りしかおらず、私は話し相手も居ないので、他の部屋の探検をすることにした




「出てすぐはトイレで……うわっ、今時和式でタンクが手動? さらに男女兼用で下から手が入るくらい扉の下空いてるし」




私は絶対にここでトイレはしないぞ、と思いつつ先へ進む




「台所に、これは……座布団をしまう場所? 他は……」




すると、扉が板で出来た小部屋があった。板は古びていて、あきらかに最近開けた形跡はない




「もう他に何も無いか」




私はおじいちゃんのところへ向かおうと後ろを向いた時、ギギッと板のきしむ音がした




「何この音?」




振り向いてみると、板が少しギシギシと音を立てている




「誰か居るの?」




居るわけ無いと思いつつ、ギシギシ音を立てる板を見ていると、右上の方に骨みたいな細い指が見えた




「だ、誰ですか?」




さらにギシギシと音がして、指が第二関節、手のひら、手首と少しずつ出てくる




私は怖くなっておじいちゃんのところへ急いだ。その瞬間、後ろでバタンと板が倒れる音がした




「うひーっ!」




私は後ろを振り向かずにダッシュで逃げた




「どうしたんじゃ?」




ちょうどトイレから出てきたおじいちゃんが見えた




「じいちゃん! 板が!」




「うん? ああ、物置を見てきたのか。あそこには何も面白いものは入っておらんぞ?」




「でも、指が! 骨みたいな細い指が!」




「骨格標本が入っておるとはきいとらんが」




「違うよ! 指が出て、板が倒れて、もう! ついてきて!」




私はおじいちゃんの手をひっぱってさっきの場所へ向かった。怖さよりももどかしさが勝ったのかもしれない




「何もないじゃないか。見間違えじゃろ」




「そんな……」




私達が戻った時、そこにはぴっちりと閉まった板しか無かった。板が倒れているどころかぴっちりと閉まっている




そこに、おじいちゃんは何事も無いように板をずらした




「ほら、何もないじゃろ」




こわごわと見ると、除雪機や鍬、スコップやバケツなどしかなかった。人の隠れる様な場所もない




私は納得していないが、実際に何も無いので会議している場所へ向かう事にした




そして、ちらりとみたトイレの扉の隙間から、白い、細長い指が地面をひっかくように動いているのが見えた

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