第285話 泥棒

不快にさせるかもしれないが、俺は昔、空き巣……泥棒だった




おっと、早とちりするなよ? 今は足を洗って逆に手口を警察や警備会社に教える、講師として働いているくらいだ




そして、なんで足を洗ったかということだが、そっちの方に興味があるんだろ?




あれは数年前の事だった。俺はちょっと金持ちそうな家のポストに、旅行の当選はがきを入れた




表札を見て旅館に予約しただけだが、別に行こうが行くまいが俺が金を払う訳じゃないから別に損はしない




当選の証拠としてこちらをご持参下さいと、安物のキーホルダーも一緒に入れてある。これには実は発信機が入れてあって、旅行の日に発信機が家から遠ざかれば中へ入るというてはずだ




まあ、大抵の家は疑って旅行へ行かなかったり、誰かにあげたり、換金しようとするやつまでいるが、あげたところで実費になるだけだし、換金もできやしない




で、この家はそのまま旅行へ行ったっていう訳さ。まあ、今にして思えば家に居たくなかったんだろうがな




俺は出発したことは分かっているが、物理的に戻って来れない時間帯になるよう夜まで待った。真夜中まで待つ必要は無い、あれは確か夜の9時か10時頃だったと思う




音が鳴らないように窓に特殊なテープを貼って、金槌で割り中へはいる




金目の物があるのは、大体寝室か居間だろうという事でそのあたりを探っていた時の事だ




二階から何か、ぽんっぽんっと風船の様な軽い物が落ちてくる音がした




誰も居ないはずの家に、なぜ? と思って確認しに行った。階段へ着くと、何もない。二階を見ると子供部屋のようだ




しかし、俺が把握している限りでは、この家に子供が居る気配はなかったはずだ。実際、夫婦で出かけて行ったはずだ




普段の俺であれば、そんな出来事も無視して金目の物をとってさっさと脱出していたはずだ




だが、俺はその時どうしても二階を確認しなければならないと感じたのだ




二階へ着いてすぐ横のドアに「〇〇の部屋」と書いてある。こどもっぽい絵柄なところをみると小学生くらいの子くらいかな?




ドアに耳を当て、物音がしないことを確かめてドアを開ける




「うわあぁ!」




そこには、ドアを見下ろすように子供の首つり死体があった。俺は腰を抜かして見上げる事しかできなかったが、そこで襲われたりすることは無かった




そして、目を離せずに見てしまった子供の死体は、ほとんどミイラのようだった。少なくとも、ここ数日で死んだものでは無いのは確かだ




「なぜ、葬式もださずに……?」




小さくつぶやいた時、一瞬何かの視線を感じてそちらへ目を向けた




すると、ベッドの下からおかっぱ頭の少女が、青白い顔で覗いている




「新しいお友達?」




「ぎゃぁあ!」




俺は恐怖であとずさりしてドア近くまで下がる。その時、異様な速さでおかっぱ頭の少女がこちらに這いずってくる




あと少しで俺の足が捕まれる、そう思った瞬間、何か壁があるかのように少女が何かにぶつかる様な格好になった




気が付くと、俺は廊下まで戻れていた。少女は、廊下とドアの部分をひっかいて出ようとするが、出られないようだ




「ああああぁ、出られない、出られない」




俺はそのままその家から逃げ出した。それ以来、他人の家に入ることはおろか、夜の9時以降に起きていることが出来なくなったんだ

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る