第281話 右腕

家族でテレビを見ていた時、津波被害の映像が流れた




濁流の中から、恐らく大人のものと思われる右腕が、水面から真っすぐ何かを掴むように伸びていた




しばらくして映像が切り替わり、いたたまれなくなって父親がチャンネルを変えた




さっきの映像についてあれこれ話していた時




「あの腕だけ見えてた人、助かったかな?」




「え? そんなの見えた?」




遠くからの映像だったため、画面の中の2cm程度の大きさだったため、俺以外気が付かなかったのか、それとも枝か何かの見間違えだったのか。いや、あれは確かに腕だったと思うが、録画をしていないので確認のしようもない




そして、結局はどのチャンネルも津波のニュースばかりになったので、録画を見ることになった




次の日、学校でもその話をしたが、やはり誰も水面からでた右腕を見た人は居なく、見間違えだろうという事になった




しかし、その帰り道、橋を渡っていると何かが流れてきているのに気が付いた




それは、まるで「見て」と言わんばかりに水面から突き出た腕だった




俺は怖くなって家に逃げ込んだ




それから、時々腕を見るようになった。窓からプールを見ると腕が出ていたり、雨の日の水たまりから腕が出ていたり




怖くなってSNSに投稿すると、同じような人が居た




「俺、昨日の夜、風呂から出る左手を見たんだ……」




「俺の方は、ついにトイレから突き出ていたのを見た。もうトイレにいけねぇ」




はたして、俺達はこれからどうなるのだろうか

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る