第265話 貯金箱

俺は昔ながらの豚の貯金箱に貯金をコツコツとしている




豚の貯金箱は陶器製で、満タンになったらカシャンとトンカチで割って中身を取り出すんだ




逆に、壊す以外で取り出す方法が無いのは欠陥なのかそういう仕様なのか……




まあ、いつでも取り出せたら何かあるたびに取り出してしまうという嫌な自信があるが




「ねえ、おひなさまの首しらない?」




ひな祭りが近いという事で、娘のためにひな壇を飾っていた妻が変なことを言い出した




「無いのか? ワン太かチカのイタズラじゃないのか?」




家の中で小型犬を飼っていて、名前はワン太だ。良く吠えるし、悪戯好きなので、どこに居てもすぐにわかる。娘の名前はチカと言って漢字で書くと千佳だ。え? 別に知りたくないって? そうですか……




「それが、チカに聞いても知らないって言うし、ワン太に聞いても答えるワケないしねぇ」




「じゃあ、お雛様だけ買いに行くか」




「そうね」




娘を連れて新しいお雛様を買いに行く。娘は、家にあった古いタイプの人形ではなく、新しいタイプの少しデフォルメがある人形を欲しがった




「うーん、雰囲気が合わないけどいいのか?」




「いいの!」




まあ、本人がそれでいいならそれでいいかと、雛人形だけ買って行った。……俺の小遣いで買う羽目になったのは何故だろう




そのおつりで、俺の豚貯金箱が満タンになったようだ。上から硬貨を入れようとしても、入らなくなったからな




入れたばかりですぐに割るのも寂しい気がしたので、ひな祭りが終わってからみんなの前で割ることにした




そして、ひな祭りが終わり、ひな人形を片付けた場所に新聞をひいて豚の貯金箱を置く




娘が割りたい割りたいとせがんだが、陶器が飛ぶと危険だし、そもそも数年間貯めたので俺が割りたい思いが強い




金槌を振りかぶり、貯金箱を割る。すると、じゃらりと硬貨とお雛様の首が出てきた




「……なんで?」




当然、硬貨を入れる場所からは入る様な事は無いし、それ以外に入れる場所もない




「ちぇっ、見つかっちゃったか」




そんな声がひな人形を片付けた場所から聞こえた気がした

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