第263話 公園のもやもや

「やべぇ、詰んだわ」




別に誰に聞かせるわけでもなく呟いた。人はそれを独り言と言う




「詰んだわ」




大事な事なので2回言う。田舎から飛び出して2か月、はじめのうちは日雇いの仕事で稼いでいたが、数日間仕事がなくなった時にネカフェで過ごしていた




それで、生来の怠け癖が出たのだろう、また働けばいいやと金がなくなるまでネカフェで過ごし、金が無くなった段階で働き先を探し……そして働き先が無かったのだ




俺は公園のベンチにドカリと腰を下ろした。少し広いこの公園は、トイレまであるので重宝している。金が無くなって数日、少し汗ばむ日が続いたせいで匂う様になった体でコンビニのバイト面接すら断られた




「腹減ったな」




ぐぅと空腹を主張する腹を撫で、ふと公園のすみをみた。そこには、何か黒いもやもやとしたものが浮いている




「何だこれ」




どうせ暇なのと、少しでも腹の足しにならないかと思っての行動だった。近づいてみてみると、ゾワリと鳥肌が立った。今日は朝から夏日確定と言っていいほどの晴天だったので、おかしい




俺は慌ててそこから離れる。公園から離れ、ぶらぶらと歩き、夕方になって少し匂う体を公園のトイレで申し訳程度にタオルを水に濡らして体を拭くと、朝の出来事も忘れて公園のベンチに寝っ転がった




ふと、誰かに覗かれている雰囲気がして目が覚めた




「うわぁ!」




俺の顔を覗き込むように、少し人の顔の輪郭に見える黒いもやが目の前にあった




「来るな!」




慌てて逃げるが、そのもやもやは追ってくる。そして、捕まった……と思ったら、一瞬デジャブの様なイメージがよぎる




「そうか、あんたここで死んだのか」




俺は今朝、もやもやの見えた場所に行くと、生け垣の裏に、前は気づかなかった段ボールの家があった




「使っていいのか?」




そこに死体があったわけではなく、この男……だと思うもやもやの人が生前に使っていた道具や、少しながらのお金があった




気が付くと、もやもやは居なくなっていた




それから、やっと日雇いの仕事が見つかり、少しお金が入った。俺はお礼に、この人が好きだったと思われるリンゴを一つ買うと、段ボールの家の横に供えた




「俺、がんばるよ」




分かったという返事の様に、リンゴがころりと転がった


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