第259話 毒で

「この中に一つだけ、毒薬が入っている」




ピエロの格好をして、ピエロの仮面をした恐らく男と思われる人物がテーブルの上を指す




丸テーブルの上には錠剤が10粒置かれている




そのテーブルの周りには男女10人が座っており、皆がその錠剤を見つめている




「順番などない。誰でもいい、錠剤を一つ口に含み、飲み込め。もし……何もなければこの部屋から出してやろう」




この部屋と男が言った部屋は、四方が真っ白い壁に覆われており、扉は一つしかない。その扉にしても、入る時に確認した段階では2重になっており、誰かが出た瞬間にすぐ後ろについて出ることは出来ないようになっていた




「さあ、どうした?」




無音の部屋に、ゴクリと誰かが唾を飲み込む音が響く。順番は無いとはいえ、飲めば死ぬかもしれないのだ、簡単に錠剤を手に取ることは出来ないのだろう




「じゃあ、俺が……」




その男は、50代くらいで、頭はそっているのかツルツルだ。見た目から言えば真っ先に死ぬタイプに見えるが、1回で毒入りを引く確率を計算すれば10%と一番低い。ただ、男がその10%を引いた場合、他の全員が100%助かるのだが




男が一番自分に近かった錠剤をつまむ。それを周りの……特に女性が熱のある目で見る。少なからず、この状況に興奮しているのだろう




しばらく錠剤を手のひらで転がしていた男は、覚悟を決めたように少し上を向き、口に含む




「……どう?」




隣に居た女性が男に尋ねる




「……これは、ラムネ菓子だな」




男はラムネ菓子と言ったが、当然味がそうなだけで毒で無いとは限らない。が、ピエロの男が説明を加える




「この錠剤の毒は即効性ですので、あなたは生還です」




ピエロの男は、その男を連れて部屋を出ると、また一人で戻ってきた




「さあ、次は誰ですか?」




さっきの男に話しかけた女性が、次に錠剤を取る。確率は9分の1、まだ確率は低いと感じられるだろう




「ごくり」




女性は一気に錠剤をのみこむと、手を組んで祈る。祈りが通じたわけではないだろうが、1分ほどたっても何も起こらなかった




「あなたも生還です」




女性はピエロの男に連れられて部屋を出て行った。そして、ピエロの男だけが戻ってくる




しかし、次に錠剤を取る人はなかなか現れなかった




「待つのも暇ですね。時間制限を付けましょうか。今から1時間以内に錠剤を取らなければ……失格です」




ピエロのその一言で、残り8人の表情が焦りに彩られる。しかし、手を伸ばすも手に取る勇気が持てない青年、そもそも錠剤から目をそらす少女、机に突っ伏して寝ているのか起きているのかさえ分からない男性やその妻であろう女性など




「残り30分です」




「くそっ!」




一人の男が時間が迫ってきていることに耐えられなくなったのか、一つの錠剤を掴む。確率は8分の1。男は、ガリッと錠剤をかみ砕いて飲み込んだ




「あなたも生還です」




「じゃあ、私も!」




女性が錠剤を取り、その夫も手に取る




こうして、最後の一粒だけが少女の前に残された。毒である確率は……100%




「残り1分ですが……」




「もういいわ」




少女は、その錠剤を手に取り……投げ捨てた




「ふむ、あなたは失格ですね。次のゲームもお願いします」




「分かったわ。今回はみんな運が良かったのね」




そう、失格であってもそれイコール死ではなかったのだ。誰かが毒で死ぬまで見ていればいいだけの……少女が主催のゲームだった




ただ、本当は毒が入れられていない事に気づくのはいつだろうか

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