第257話 クローゼットに

初めて彼女と会う




SNSで知り合い、意気投合し、会わないまま付き合う事になった彼女が居る




男としては珍しい編みグルミが趣味で、それ繋がりで知り合った




一応顔も知っているし、電話もしているから初めて会うという感じではないのだが……




「……ラインにあった住所はここなんだが」




彼女は一人暮らしという事で、俺は勝手にアパート暮らしかなと思っていたが、実際に住所の場所へ行くと、築100年くらい経っているんじゃないか? というような家だった




「明らかに10部屋くらいありそうな家だな……」




昔ながらの農家の家と言えばいいのだろうか、入り口は横に引くタイプだ。一応インターフォンを押すと、返事があり、鍵が開いているので入ってきて欲しいという事だった




「……出迎えてはくれないのか?」




そう思って戸を引いて開けてみると、玄関にはぬいぐるみが所狭しと置いてあった




「すげーな、人形だらけだ」




靴を脱いで中に入り、目についた部屋の中も人形だらけだった。全部ゲーセンとかにあるような高級感の無い人形なので、不気味ではないのが救いか




それにしても、どれもこれもでかいな。全部1m以上あるんじゃないか? SNSの写真では大きさまでは分からなかったが、まあ、俺もでかい人形には惹かれるものがあるから趣味なんだろうと思うことにした




「どこにいるんだ?」




「こっちよ」




声のする方へ歩いていくと、普通に手前に引くタイプの戸がある部屋だった。一応ノックする




「入ってきて」




ガチャリと扉をあけると、さっきまでの人形だらけの部屋とは違い殺風景な部屋だった




部屋の中心にガラスのテーブルがあり、あとはクローゼットがあるくらいか




「ぬいぐるみがいっぱいで驚いたでしょ? というか、驚かせるために一人で入ってきて貰ったのよ。じゃあ、コーヒーでも入れてくるわね」




彼女は初めて会ったというのに淡々としている。座布団を敷いて部屋を出て行く。俺は時間があるので、ふとクローゼットを開けてみたくなった




「勝手に見るのはあれだけど、この部屋何にもないしな」




ということで、古びたクローゼットを開けた




「は?」




そこには、座って上を見ているおかっぱの少女が居た。が、どう見てもミイラ化している




「まさか……」




俺は部屋を出て一番近くで見つけた人形の縫い目をほどく。すると、中には茶色い肌が見えた




「あら、もう気づいたのね。睡眠薬入りのコーヒーが無駄になったじゃない」




彼女は前から歩いてきて、ポケットから何かを取り出すと、俺の顔に吹きかけてきた




「ぎゃあぁ」




「ごめんなさい、催涙スプレーしかなくて。すぐに逝かせてあげるから」




俺は涙でよく見えない目で、彼女がスタンガンを取り出すのが見えた




「……? ここは?」




俺は首に痛みを感じて手を当てる。すると、知らないおじさんがいた




「俺はこの近くの交番勤務の警察だ」




そう言って懐から警察手帳を開いて見せてくれた




「たまたまこの家の前を通りかかった時に叫び声が聞こえてな? 慌てて飛び込んだらおまえさんの首をロープで絞めている女性が見えたので、すぐに助けたんだ」




「その女性は……?」




「わからねぇ。おまえさんを助けている隙にどこかに逃げてしまった。一応、応援は呼んであるが。……そもそも、この家は老人夫婦の2人暮らしだったはずなんだが」




「その部屋の人形の中を見てみて下さい。おそらく死体です」




俺はさっきみた部屋を指さす。警官はすぐにその部屋へ向かったが、すぐに戻ってきた




「そんな人形なぞどこにも見当たらんぞ?」




「それなら、あの部屋のクローゼットを見てください。少女のミイラがあるはずです」




警官は「本当か?」とちょっと疑ったが一応見てくれるようだ




今度はしばらく戻って来なかったので、逆に俺からその部屋に向かった




「どうですか?」




「おまえさん、あるにはあったが……」




俺は一度見たのもあって、スイと警官の肩口からクローゼットを覗き込んだ




「なっ、彼女は……」




そこには、俺を襲った彼女が、首を切られた状態でもたれかかっていた

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