第208話 カラオケ店で
いつも通らない道を通ってみようとたまに街中を目的も無くドライブする時がある
結構車が通る広い道沿いに、カラオケ屋があるのを見つけた
その時は、「へー、こんな所にもカラオケ屋があるんだ」くらいにしか思っていなかった
忘年会の時にいつもと違う場所にしようと、ネットでたまたま見つけた鍋屋で食べることにした
その店は、鍋に仕切りをして2種類の鍋が楽しめ、最後には仕切りを外して新しい味を楽しめた
時間はまだ夜の8時位だったので、二次会は無いのかと上司に言われた
ふと、この道に覚えがあった俺は、「近くにカラオケ屋がありましたよ」と教えると、上司も「だったら、俺の美声を聞かせてやる」と乗り気だ
酒も入っていたため、歩いて行くことになったが、そのカラオケ店は鍋屋から200mくらいしか離れていなかった
初めてじっくりと見るそのカラオケ店は、お世辞にも新しいとは言えず、昔の駄菓子屋を改造した様な感じに見えた
今更ほかの店に行くのもアレなので、とりあえず中に入ることになった
結構はやっているのか、自分たちの他にもお客が着ていた。会員証もあるみたいだが、紙で作られている物で、チャチな物の様だ
俺達が受付に行くと、20代くらいの男性が「会員証はありますか?」と聞いてきたので「持っていないです」と答えると、無くても値段は変わらないという事だったので、作らなかった。何のための会員証なんだろうか?
一応、飲み放題のノンアルコール飲料と、有料のビールがあり、最初はみんなでビールを飲むことにした
通路は薄暗く、部屋の音が漏れないためか、思ったよりも静かだった
部屋は、7~8人は入れるようで、俺達は5人だったので結構余裕を持って座った
最初にビールを乾杯すると、「先に歌え。俺は締めだ」と上司が言うので、若い者から順番に歌うことになった
若い者はやはり新しい曲ばかりで、知った曲は無かった。まったく知らない曲ばかりで気分を悪くしたのか、締めを歌うと言っていた上司が歌を入れた
「やはり、昭和の歌だよな!」
上司はのりのりで演歌を歌い始めたが、逆に若者も、正直言うと俺も知らない曲だったので、相槌の拍手だけしていた
曲の途中で、画面にノイズが走った気がした
上司はノリノリな上に、もともと歌詞を見なくても歌えていたので気が付かなかったようだが、気になってみていると、曲の背景に使われているコートを着た男性と、一緒にいる赤いドレスの様な物を着た女性の後ろに、何か人影の様なものが見える気がした
他の人も変だと思い始めたようで、隣と話しているのが見える。すると、急に上司が「やべ、トイレにいってくるわ」と言って曲の途中でトイレに行った
上司が部屋から出ると、嫌な予感がしたのですぐに曲を停止した
しばらくシーンとした部屋で、一人が「画面に、何か変なものが見えませんでした?」と言うので、皆無言で頷いている
一応、一通り歌ったし、気味も悪かったので、上司が戻ってきたら解散しようと言うつもりだったが、10分くらい経っても戻ってこない
「もしかして、トイレで寝ているんですかね?」
結構酒が入っていたから、倒れていないにしても、寝ているのはあり得るな
みんな、この部屋に居たくなかったので、全員でトイレに向かうことにした
すると、トイレの床に座る上司が居た
「大丈夫ですか? タクシーでも呼びましょうか?」
そう声とかけると、上司は初めて俺達が居ることに気が付いたようで、一言、「そこの鏡から、女が出てきた」と言うと気絶するように眠った
カラオケ料金を精算し、若者には解散を告げ、タクシーを呼んで上司を家に届ける
タクシーの中でも上司は「女が、女が」とうわ言の様に言っていた
次の日は土日だった。月曜日、土日に連絡が無かったのでとりあえず普通に出社すると、上司が何事も無かったかのように机に座っていた
「先週はおつかれさん。悪いな、いつの間にか寝てしまったようで。ほら、とっとけ」
上司は俺に飯代とタクシー代だと言って1万円くれた。俺は一応、気になったので聞いてみた
「あの、カラオケ店での事を覚えていますか?」
「あん? 俺はカラオケ屋なんて行ってないぞ」
どうやら、上司はカラオケ店に行った記憶が無いらしい。それが、酒が理由なのか、変な女を見た影響なのかは分からないが
1年後くらいに、その店を見に行ったら潰れていた。店自体は残っているが、次に入る店はどうなるのでしょうね
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