第207話 銀行、業務中に

私は、銀行の窓口業務をしています





午前中の忙しい時間帯、ふと入口のほうを見ると、髪の長い女性がうつむくように立っているのが見えました





普段であれば支店長代理がお客さんを案内するはずですが、代理は外を向いているので女性には気が付いていないようです





「いいのかな?」と思いつつ、私の窓口にお客さんが座ったので意識を集中します





出金処理が終わり、お客さんにお金を渡した後、入口の方を再び見ると、女性が1m程こちらに近づいていました





見ている限りは微動だにせず立っているので不気味ですが、忙しいので気にしている時間はありません





次のお客さんが席を立った時、その女性がすぐに私の席に座りました





私は、「えっ?」と思いました。なぜなら、誰も気にしていなかったので、正直に言うと、人間とは思わなかったのです





「出金ですか? 入金ですか? 振込ですか?」





普通は用件に合わせて呼ばれるのですが、その人は何も持っていません。しかし、その時の私は知らず知らずのうちに混乱していたのか、他の人を呼ぶ余裕すら無かったように思います





「生まれる?」





「はい?」





女性は、私に向かって声をかけてきましたが、意味が分かりません





顔は相変わらずうつむいているので表情も分かりませんが、視線の先を見ると私のお腹を見ている様でした





「どういう意味でしょうか?」





私が聞き返すと、女性はカウンター越しに体を乗り出し、私に襲い掛かろうとしました





私はとっさには声もだせず、ぎゅっと目をつぶりました





すると、私の体の中に入ってくるような感触がしました





「大丈夫?」





私は意識が飛んでいたようで、隣の窓口の女性に声をかけられて「はっ」としました





私の前にはすでに女性はいません





業務が終わってから、さりげなく周りの人に女性を見なかったかと聞いてみましたが、誰も知らないと言います





それから数日後、私が妊娠していることが発覚しました





私には、あの女性が体の中に入ってきたのではないかと不安になっています

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