第201話 素敵なドレス

ショーケースのマネキンが着ているドレスが欲しいと思った





私は、高校生2年生であるが、バイトをしている





将来、デザインの仕事をしたいと思っていたが、親に反対されたため、自分で学費を稼ぐことにした





その日もバイトで働いていたが、終わるのが遅くなってしまったため慌てて帰る





通いなれた道だったはずなのに、時計を見ながら走っていたためか、一本道を間違えた様だ





そこで、すでに閉まっている個人商店のショーウィンドウが目に入った





「綺麗・・・」





ポーズをとった人間大のマネキンが、見たこと無いくらいに綺麗な白いドレスを着ている





天使が着ていた物だと言われても信じられると思った





「はっ! 急いで帰らないと門限が!」





私は慌てて来た道を戻ろうとしたが、ドレスも気になったのでチラリと値札を見た





「100万円・・・」





今貯めているお金を使えば買えないことは無いが、それを使ってしまう事は、今後の事も考えるとけして気軽に使える金額ではない





後ろ髪を引かれる思いで離れると、家に帰った





結局、門限を過ぎて親に怒られてしまったが、頭の中はあのドレスの事でいっぱいだった





「100万かぁ」





私は通帳を取り出して残高を見る。ここ1年アルバイトで稼いだお金が入っていると思うと、簡単には出金したくない





1か月で約9万円稼いでいたので、大体100万ちょっとある。しかし、これを使ってしまうと本当にお金が無くなってしまう





でも、あのドレスは今買わないと絶対に2度と手に入らない予感があった





「私の結婚式にって言ってもだめだよね・・・」





結婚できる年ではあるが、婚約どころか彼氏すらいない





「はぁっ、せめてもう一回だけ見よう」





私は、ため息をつくと布団に潜り込み眠った





次の日のバイトを終え、昨日の道に入る。そして、ショーウィンドウのドレスを見る





「やっぱり欲しいなぁ・・・」





もう一度値札を見ると、予約済になっていた





「えっ、まさか・・もう売れたの?」





私はショックを受けて、すでに閉まっている商店のインターフォンを押した





住宅を兼ねているようで、2階には電気がついている。恐らく住人がいると思う





しばらくすると、70くらいのおじいさんが出てきた





「どうしたのかね?」





「あっ、ドレスの事で聞きたい事があるのですが・・」





「商談かね? 中へ入りなさい」





おじいさんは私を店の中に入れると、玄関の鍵を閉めた。ちょっと不安に感じたけど、もしかしたら一人暮らしで、強盗対策かもしれないと思う事にした





「さあ、話を聞こうじゃないか。おっと、その前に、お茶でも入れてくるよ」





おじいさんに対して「おかまいなく」と言ったけれど、「いいから」と席を立っていった





やはり一人暮らしのようだ





私は何もすることが無いので、店の中を見渡した





すると、いろいろな服を着たマネキンがいくつも見える。マネキンのサイズや恰好もさまざまで、子供くらいのものから、20歳くらいの人が着そうな服まである





「待たせたね」





「いいえ、こちらこそ急に押しかけてしまいまして」





「それじゃあ、お茶でも飲みながら話をしようか」





私は、勧められたお茶を飲む





「ショーウィンドウに飾られているドレスなのですが、売れてしまったんですが?」





「ああ、あのドレスはね、マネキンの方がダメになりそうだったので一旦下げようかと思っていたんだ。だけど昨日、防犯カメラを見ていると、似合いそうな人が見つかってね、その人に着させようと思ったんだよ」





「それは、誰なんですか?」





「それは、君だよ」





「だったら・・・」





私は急に眠くなってきて、目を開けていられなくなった





「君が、マネキンになるんだよ」














しかし、私がマネキンになることは無かった。このあたりで行方不明者が出ていたため、見回っていた警官が丁度私がこの店に入るのを目撃していたそうです





ここのおじいさんは、妻に先立たれたショックから、精神に異常をきたしたらしい。しかし、腕は確かなようで、店に来た女性を殺してマネキンにしていたそうです・・・





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