第16話
女がまた言った。
「鬼の子供が人間になつくなんて、ほとんどないのだがな」
声は美声とも言えるほどの女の声だが、言い方は完全に男だった。
「鬼?」
雨宮が思わずそう言うと、鬼が答えた。
「そう。私たちは鬼だ。もちろんこの子も。私の娘だ」
「鬼なんてものが本当にいたのか」
「いるさ。今おまえの目の前に」
確かに目の前には明らかに人間ではないものがいる。
雨宮はそれがあまりにも現実離れしていたのと、鬼の語り口が極めて穏やかなこともあって、恐怖と言うものを感じていなかった。
それに雨宮にはどうしても気になることがあった。
それを思い切って鬼に聞いてみた。
「ひょっとして満月のたびに起こる殺人事件、この子がやっていたのか?」
「そうだ。見た目は小さいが、人間の十倍以上の力がある。片手で人間を振り回すことなんて、軽々とやってのける」
「でもどうして?」
「月だ」
「月?」
「そう、満月の夜、鬼の子供は狂う。大人は大丈夫なのだが。それに私たち鬼は普段はお前たち人間とは違う次元に住んでいるのだが、私の娘はその次元を超える道を作ってこちらにやってくるんだ。狂ったままで」
「次元の道?」
「大人は作り出せるが、普通子供は作り出せない。それなのにこの子は何故か作り出せてしまう。そして狂ったまま人間界に来るんだ。子供で次元の道を作れると言う話は、鬼の長い歴史の中でも聞いたことがないのだが」
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