第2話

死体が運び込まれて間がないが、大まかなことはもうわかっているはずだ。


それを聞きたくてたまらない。


なにせあんなにも異様な死体など見たことがなかったからだ。


この道三十年にもなるというのに。


「よお」


「来ましたか」


検死官が死体から目を離さずに答えた。


「で、どうなんだ」


「どうもこうも。どうして死んだのかは明白ですが、どうやって殺したのかがわからない」


「現場を見れば大体わかるが、一応聞こう。どうして死んだんだ」


「ブロック塀でしたか、それに強い力で叩きつけられたからです」


「やはりな」


「顔面から叩きつけられていますが、頭蓋骨の前半分以上が粉々になってます。もちろん脳はつぶれ、直接の死因はそれでしょう。あと肩とか肋骨とか内臓とかも首に近いところほど大きなダメージを負っています。こっちだけでも死ぬには充分過ぎるほどのダメージですが」


「そうか。それでどうやって叩きつけられたのかがわからないんだな」


「ええ。肉体的な死因は私の管轄で、殺害方法は権藤さんの管轄ですが、私の意見を言わせてもらいますと、まず左足近くになにかでつかまれたような痕があり、そのすぐ上の部分の骨がきれいに折れています。ただ、人間の手でつかんだとしたのならかなり小さな痕なんですが。て言うか、片手で片足をつかんで、こんなになるほどの強い力で成人男性をたたきつけることが出来る人間なんて、自信をもって言いますが、世界中探したとしても一人もいません。そんなやつは人間ではありません」


「それほどまでに強い力で叩きつけられたと」


「そうですね。仮になにかの大型の機械を使ったと仮定したら、可能かもしれませんが。そんな機械なんて、見たことも聞いたこともありませんが」


「それはないだろう。男が叩きつけられたときの音を聞いて飛び出して来た者が何人かいて、その人には聞いてみたが、誰もなにも見ていないそうだ。夜の静かな住宅街の細道に、そんな大掛かりなものを誰にも知られずに持ち込むのは簡単ではない。その上それを殺害直後に誰にも見られずに撤去するなんて芸当、できるわけがない。もし使ったとするならば、人一人で簡単に運べるものでないと。だとすると一体どんなものをどう使ったのかが、まるでわからない」


「……」


「だからどうやって殺したのかが、まるでわからない。もちろんこれから捜査をしていくがな。で、そっちはどうなんだ」

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