第28話
翌日。
エイジは朝の時間帯をブレンドの散策に当て、オープンテラスがお洒落な店で軽食を取ってから、前日に引き続き冒険者ギルドブレンド支部に顔を出していた。
正面の受付カウンターには昨日と同じく褐色美人のヨッタさんがおり、紫のローブの人物となにやら話し込んでいる、その横のカウンターではもう一人受付嬢が立っており、そちらも対応中の様だ、辺りを見渡せばどうやら昨日より人が多いらしい。
「まぁ、少し待つか」
クエストボード前に移動、中級ランクの依頼が張り出されているボードの前であれこれ話し合っている……パーティなのだろうか?彼らを横目に昨日と殆ど変わり映えの無いクエストを、眺めていると。
「坊主、見ねぇ顔だな?どっから来たんだ」
「あら可愛い子じゃない、食事に来たの?それとも冒険者?」
今までこれにしようあれにしようと盛り上がっていた冒険者の三人に話しかけられた。
「昨日ブレンドに来たばかりです、冒険者登録も昨日……」
「あら、あらら。じゃぁ新入りって事なのね!私はトーラよ、よろしくね可愛いボク」
「昨日登録したのか、だったら今日が初のクエストって訳だな、いやぁイイなトーラ、俺等にもこんな時期があったんだよなぁ」
「ダン……声が大きいですよ、少年が怯えているじゃないですか」
「ウルセぇ俺はこれが地声なんだよ!」
「全く……少年、僕はこの『トレジャーバイツ』でシーフを務めています、ノスタルといいます、こっちの大きいのがダン」
踊り子の様な露出の多い恰好をしているトーラ、軽鎧を装備している長身のダン、そして目つきは鋭いが落ち着きある声色のノスタル、三人でトレジャーバイツという名前のパーティを組んでいるらしい。
「僕はエイジ、です……えっと、魔術師です」
「なぁにぃ~!?魔術師、だと!」
「ほう、それは……」
「わぁ、エイジ君魔術が使えるんだぁ、すごいすごい!」
いつのまにかトーラがエイジの背後に回っていた、完全に先輩に絡まれてしまっている状態だ、基本的に同年代か年下としか交流が無かったエイジは、正直かなりビビっている。
「きちんと学んだわけではないので、高位の魔術は使えないんですけど……」
「それでもすごいよ、エイジ君若くて可愛いのに、ねぇプレート見せて?あ、これ?本当だ魔術師って書いてあるよ」
「こら、トーラってば……新人に絡むんじゃありませんよ」
「魔術師かぁ、個人的にはあまりいい思い出がねぇんだが、エイジ、お前はあの『紫炎』の娘っ子とは少し違う雰囲気だな!」
「ダンッ、だから声が大きいですって、聞こえたらどうするんですか」
ダンの言葉に後ろからエイジの髪を滅茶苦茶に撫でていたトーラの手も止まった、そして三人が一様に同じ方向を向いている、受付の方向、ヨッタのいるカウンターだ。
そこでエイジがギルド内に入ってからずっとヨッタと話し込んでいた、紫色のローブの人物がその会話をピタリと止め、ゆっくりとこちらを向いた。
「おっと、クエストを受ける前にちょっくら腹ごしらえといくか!」
「そ、そーねぇ、あたしおなかが空いちゃったぁ~」
「ゴホンッ……ではエイジ君、また会いましょう」
「え、え?」
トレジャーバイツの面々は壁際をそそくさと歩いて二階席へと向かってしまった、勝手に盛り上がって勝手に沈んでいった、なんとも愉快な人たちだと思うが、三人をそこまで怖がらせる人物、エイジが再びその方向を向いた時には紫色のローブの影は、既にカウンターの前に無く、少し離れた所で一組の席に座って頬杖を付いている。
黒い髪を短く切り揃えているショートヘアーの女性だ、あどけなさの残る顔なのだが余程気分を害したのだろうか、目つきの悪さが大分整った容姿を台無しにしている、エイジと同い年位だろか。
クエストボードの前で途方に暮れているエイジに向けて、ヨッタが困ったような笑顔で手招きをしている、エイジは大人しくその前まで移動した。
「こんにちはエイジさん、見てましたよ、大変でしたね」
「はい、こんにちは……まぁ新入りの通過儀礼ってところなんでしょうけど、あの、いいんですか?まだお話の途中だったんじゃ」
「大丈夫ですよ、お仕事の話はとっくに終わっていましたので」
「ならいいんですけど」
「それで、本日はどのようなご用件で?クエストを受注されますか?」
「そのことで訊きたいことが」
エイジの要件としては、現在『蜉蝣の団目撃情報』のクエストについて審査中とのことだが、審査中の場合でも他のクエストを受けるのは可能なのか、という事。
「はい、勿論可能です、冒険者が受注できるクエストの数は基本的に上限はございません、ランクや実力、必要日数等を考慮してギルド側からストップをかける事はございますが、高ランクとなると長期間一区域に拘束されるようなものもありますので、同区域内でついでに解決できそうな依頼を、複数受けてから出発されることも多々あります」
「なるほど……、じゃぁ折角だし何か受けてこようかな」
「初のクエスト……とは少し違ってしまいますが、よろしければ此方からエイジさんに合ったものを提案させていただくことも出来ますよ」
「それは、助かります」
「各自の得意な分野から候補を上げていくのですが、エイジさんは魔術師……一時的にパーティに参加してモンスターの討伐か、魔石や薬草等の採取クエストが初めてならお勧めさせていただきます」
パーティに参加して戦闘、それか採取か。
エイジがルゥシカ村で冒険者の人から聞いた話だと一時的に他のパーティに入れてもらったり、臨時で即席のパーティを組んだりすることはよくあるらしい、それは一ヶ所に止るつもりのないエイジが経験するべき事なのだろうが。
「初めてですし、一人で行ってきます。今の時間から日帰り……は難しいか、一日二日で帰ってこれる採取クエストをお願いしたいです」
「かしこまりました、それですと…………此方はいかがでしょうか」
カウンター横の分厚いファイルをめくりながらヨッタが取り出した紙には、こう書かれていた。
【毒属性魔石の採取】
受注可能:誰でも
報酬:基本5000ゴルド、追加報酬
・ブレンドより南西、沼地にて毒属性の魔石の採取をお願いしたい、最低でもギルド基準のボックス一つ分の魔石の確保、その他純度や量に応じて追加の報酬も用意しているが必要分だけの納品で残りは個人の物にしても構わない。
・耐毒装備や浄化ポーションは冒険者側で用意してほしい。
「魔石、か」
「どうでしょうか、聖属性の魔術には浄化作用あると聞いた事があります、浄化のポーション代金も浮きますし、沼地ならば一日とかからない距離です」
「いいですね、でも魔石……村では昔鉱山で土の属性が採れたらしいけど、実際に自然生成されてるのってあまり見たことがないですよね」
壁画の部屋へと続く長い階段に魔石と呼ぶには満たない石が沢山あったのだが、それ以外では殆どない、欠片程度の風の魔石を断崖の崖壁で採取した事と、アレッサンドルが行商から購入していた着火用の火属性の魔石くらいだろうか。
「沼地は魔素に満ちている場所でもありますし、魔石が多く生成されるんですよ、色も緑だったり紫だったりと、その名の通り毒々しい見た目をしていますので、分かりやすいかと思いますが」
「わかりました、先ずは受けてみます………あ、そういえば」
「どうされました?」
魔石と聞いて一つ思い出したことがある、昨日ギルドの初めて入った時に拾った、あの黒い石、無造作にポケットにしまった辺りからすっかり忘れていたが。
「これ、魔石か」
「あら……それはもしかして」
「あ“ああーーーーー見つけたぁ!!」
エイジがポケットを弄り黒い色の石を取り出してヨッタに見せた瞬間、ギルドの一角から突然大きな声が上がった、何事かと思って見てみると、エイジの前にヨッタが対応していた例の紫色のローブの女がエイジを指さして席から立ち上がっている所だった。
「え、なに?なんなの」
「ちょっとあんた!その魔石!」
ローブを翻しながら鋭い眼光でエイジにつかつかと迫ってくる女、いや女の子と言うべき年なのだろうが、その炎の様に真っ赤な色の瞳は確かな怒りの感情を宿しており、エイジは思わず身を引く。
「この泥棒め!」
「なんでやねん!」
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