第27話
エイジからの説明は一時間以上にも及んだ、途中でヨッタが持ってきてくれた紅茶で一息ついたが、ただ説明するだけにしては相当時間がかかってしまった。
「長くなってしまいましたが、要約するとそんな感じです」
「ふむ……」
話の途中からラザロは一層神妙な表情となり、無精ひげをひたすら撫でながら偶に相槌をいれる、エイジが史実をぼかした箇所は二つ。
小山の中の遺跡で祈っていた事を、小山で狩りをしていたという事に。
エイジが黒剣でガプ、エルドリングや蜉蝣の団十数名を切り刻んだ事は、ガプとエルドリングが突如争い始め、多くの団員が巻き込まれて死んでいったという事に。
出来る限り史実通りに説明する事で隠蔽しやすい様に話を作ったつもりだが、ラザロの様子からして何か矛盾や違和感に気付いたのだろうか、エイジの握る手の平が汗で濡れる。
「百人隊長ガプ、その名前は聞いた事がある、斧を使うという戦い方も私が聞いた通りだ、そして件の目撃情報の中には、そのガプという男ではないかという不確定な事柄も入っていた筈だ、それはこのクエストを受けた者にしか説明しておらん、今日この街に来たというエイジ君が適当に知り得る情報ではないと判断する」
「それって、つまり?」
「君の情報の信憑性を私が保証しよう、ランク不足故このクエストを達成したという事には出来ないが、少なくはない報酬を約束しようではないか」
「ッ、ありがとうございます!」
「いいのだ、村の焼き払いなども本来ならば私達か、王国軍の仕事なのだから……辛い思いをしたな」
その励ましの言葉にエイジは答えることは出来ない、全ての情報を開示していないという心苦しさに加え、燃え上がる教会を思い出すと『辛い思い』などという言葉では当てはまらない、あの言い表せない感情は他人に理解できるものではない。
「それにしても、だ」
「はい、なんでしょう」
「エルドリングという男、蜉蝣の団の顧問魔術師だそうだが、その名前に間違いはないのだな?」
「え、えぇ……、確かにそう名乗っていました、ローブを身に纏っていて紫色の宝石が付いた短杖を持っている、えっと容姿は」
「よい、もうよい……どうやら最悪の予想が当たってしまったらしい」
「どういうことですか?」
ラザロが先から考え込んでいる様子なのは、どうやらエルドリングの事についてらしい、エイジにはその理由もなんとなく分かっている、奴が名乗ったもう一つの称号、二つ名の様な物はラザロがよく知る物なのだろう。
一呼吸おいてからラザロはゆっくりと話はじめる。
「エルフドリング……そやつは本当に死んだのか?」
「はい、隠れながらだったので正確には分かりませんが、大斧を使う男と相打ちになりました、あの血の量では恐らく助からなかったでしょう」
「そうか、いや……わかった、ありがとうなエイジ君」
『闇水のエルドリング』闇属性を使う高位魔術師、多分この名前は調べればすぐにでも分かるのかもしれない、あれ程の実力者だ、ブラックやシルバーのランクにいたとしても不思議ではないだろう。
そしてそんな人物が同時にエルドレッド王国を脅かす大盗賊、蜉蝣の団で顧問魔術師を名乗っていたとなれば、これは冒険者ギルドの大きな責任問題となる。
それを予想出来ていたからこそエイジは奴について詳しくは説明しなかった、そんな風に名乗りを上げた人物が同族同士の内部争いに巻き込まれて死んだ、これで万事が解決する。
「僕の知っている情報はこれで以上です」
「ふむ、あい分かった、情報提供に感謝する、これで後から動くであろう王国軍と連携も取りやすく、今はカルレヴァ村で避難しているルゥシカ村の住民たちへの支援も滞りなく進むことだろう、エイジ君、初の依頼達成としては異質な物となってしまったが、素晴らしい功績となった、君の今後に期待する」
「いえ、お役に立てたなら何よりです、皆への援助があるのなら……どうかよろしくお願いします」
「任せておきたまえ、潤沢とはいかないまでも出来る事はしよう、約束だ」
※※※
「お疲れ様でした、エイジさん」
「あ、お疲れ様です……ヨッタさん、あのお茶ありがとうございます、美味しかったです」
「フフフ、いいんですよ、情報の精度が認められたと話は伺っていますよ」
「え、早いですね……今出てきたところなのに」
「副ギルドマスターはああ見えて魔術師としても一流なんです、たった今念話が飛んできました、念話と言ってもラザロさんからの一方通行なんですけどね」
そう……だったのか、あのムキムキな筋肉をしておいて、あの人魔術師だったのか、意外過ぎる事実に暫し言葉を失う。
「昔は拳闘魔術師なんて自ら名乗っていたそうですが、その話をすると子供の様にむくれてしまうんですけど……ではエイジさん、例外的措置となりますが情報提供の報酬が発生いたします、おめでとうございます」
「あ、ありがとうございます……あの」
「?、なんでしょう」
「その報酬なんですけど、今カルレヴァ村で僕と同じ様に生き残った人達がいるんです、その人達に送ってもらうという事は出来るでしょうか」
一緒に苦を乗り越えようとしている皆の顔を思い浮かべる、メリル、ミシランやナッシールは元気にしているだろうか、結果的に移住という形にはなるだろうが、カルレヴァ村もそれほど大きい村とは言えない、家の数にも限りがあるだろう、今辛い思いをしているのは皆の方なのだ、こんなただ話をしただけで得られる金を、自分だけで使う訳にはいかない。
「なるほど、畏まりました……報酬金の受け取り先の指定は可能です、しかし宜しいのですか?例外的措置とはいえ本来はシルバーランクのクエストです、ある程度纏った額になると思いますよ」
「シルバーランク……ちなみに応相談って書いてあったと思うんですが、幾らくらいになるんですかね?」
「あまり大きな声では言えませんが、本来なら三十万ゴルドのクエスト報酬となる予定でした、ですが先に馬を出している冒険者の方もいらっしゃいますし、恐らく半額の十五万ゴルドとなるかと思います」
「十五……万………」
「あ、副ギルドマスターからです…………報酬は先に出している人間が戻り次第としたいから、少し時間がかかるかもしれない、一週間はかからないと思うが査定中という事で暫くブレンドを楽しんでほしい………だそうですよ」
ヨッタが空中に漂う電波をキャッチしたような顔でそう告げる、見積もりの時点で15万ゴルドの報酬となるそうだが、先も言った通りその金を全て自分の懐に仕舞い込むのは気が引けるし、あり得ない。
「わかりました、では僕の取り分は一割でいいですから、後は全部カルレヴァ村の村長さん、ムルクル氏に事情を書いた手紙と一緒に送って下さい」
「優しい方なのですね、エイジさんは、確実に届けられるように手配の準備も進めておきましょう」
「うん、じゃあ……また来ますね」
お待ちしておりますと、背後からヨッタの弾むような声を聴きながらエイジは冒険者ギルドを後にした。
外に出てみればいつの間にか日が傾き始めている、思いの外長い時間を使ってしまったらしい、ブレンドの中央広場は先と変わらず賑わっていたが、どうやら出店している店の種類が変わっているらしい、そちらへ気が向いてしまいそうになるが、人通りを避け適当な壁に背中を預ける、ギルド登録の他にもやるべきことは色々あったように思うが、暫くは此処に滞在するのだ、そう考えると急ぐほどの用事は無いように思える。
(それにスラスルトも言ってた、初めての遠出ってのは気持ちが先走ってしまう、そうなると大抵碌なことにはならない、って)
今日はもう安らぎの止まり木に戻って休もう、出る時に女将さんが言ってた料理のサービスを楽しみに、エイジは喧騒の中に紛れて行った。
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