第25話
冒険者。
彼らの主な仕事は、ギルドが受けた依頼を審査しランク付けされたクエストと呼ばれる任務を遂行する事。
その依頼は様々で魔素の影響で突発的に発生するモンスターの駆除、他ギルドや得意の商店からの納品に、一般人が立ち入るのには危険が伴う場所等に生成されている希少品などの採取、商隊の護衛や、警備巡回、変わり種では貴族の子供に剣術を指導したりすることもある。
そこで一つ疑問がわいてくる。
ブレンドの様な大きな街では、配備されている自警団の規模も地方村とは比べ物にならない、ましてや南方との戦時中、各重要な街には一定数の騎士団も配備されている、ブレンドにも王国とは比べ物にならないが、数百人ほどの騎士が常駐しているとのことだ。
ならば冒険者などと言う身元も怪しい粗暴者たちに仕事を任せるより、自警団や騎士といった自治組織に任せた方が確実なのではないか。
しかし、一概にそうとも言い切れないらしい。
冒険者ギルドへ定期的に納品依頼を出しているとある店主は、こう語る。
「騎士?あいつらは駄目だ、高い金をとるくせに仕事が遅い、依頼したものと違った品物を持ってくることだってあったんだ、国防という点では頼りにしているけど、普段から使うんなら冒険者たちの方がよほど信用できる」
騎士を辞め、冒険者として活躍している人もいる。
「餅は餅屋って言ってさ、東の国の言葉なんだけど、専門的な事は専門家に任せておけって意味なんだ。騎士が個人として依頼を受ける事もあるんだけどね、普段から組織的な動き、軍隊としての連携を学んでいるからさ、どうも上手くいかないんだよね……それに上層部からの審査を通さないと仕事として遂行できないし、やっぱり騎士の本業は国を守り敵国を打つこと、この辺じゃ滅多にないけど軍隊として盗賊団の壊滅とかに向かう事もあったよ、そういう時は頼りにしてくれよな」
シルバーランクのパーティのリーダーは冒険者についてこう語る。
「冒険者ってのは何よりも自由なんだ!ギルド側からこの依頼を受けてくれないかと頼まれることも偶にあるが、基本的に自分のやりたい仕事をやればいいし低ランクや若い内は様々な仕事を受けてみるのも、確実に自分の為になって返ってくる、俺たちのパーティは戦闘力自慢だから討伐系ばかりを受けているが、人の役に立っている実感は強いぜ、その分危 険も大きいが、それも冒険者の醍醐味だと、俺は思っているぜ」
自警団は自治組織として警備や治安改善に努め、騎士は国の保有する軍隊として国防と戦争時に全線で活躍する。
そして冒険者たちは彼らの手の届かないところ、そういった部分を的確に迅速に、依頼の難易度と実力を照らし合わせ高い依頼達成率を確保する、それが冒険者ギルドなのである。
「と、以上が大まかな説明になります」
「は、はぁ……」
冒険者ギルド、ブレンド支部。
その建物内、その受付でエイジは褐色美人のお姉さんからギルドについての説明を聞いていた、冒険者に登録したいんだがと話しかけてから、お姉さんが受付の下から取り出した使いこまれた羊皮紙には『冒険者って何する人?』と大きく題が書かれ、デフォルメされたキャラクターがふき出し内でセリフを話している様子が描かれている。
「クエストは彼方のクエストボードにて張り出されえいる物から、自身のランクに合ったものを選んで彼方のカウンターで手続きを行ってください」
「沢山ありますね」
「えぇ、そして注意点としてひとつ、ギルドから冒険者各員に緊急クエストというものが発行されることがございます、主に軍隊派遣が必要な案件に対して対処が間に合わない場合などに発生します。例として四年前にここから南部にAランクモンスター、オークキングが誕生し生体となり大隊規模のオークが発生したときなどに、冒険者の力を合わせてこの街の防衛に当たるといったクエストがありました、この緊急クエストは集団で当たる事を見越してBランクとされておりましたが、こういったクエストを拒否される場合は最悪、ランクの降格や除名処分も有り得ますので注意してください」
「分かりました、ランクというのは?」
説明が始まってから営業スマイルなのだろうが、変わらない笑顔で手振りを交えて設備や規則の説明をしてくれるお姉さんが、エイジは少し怖くなってきた。
「ランクというのは、個人やパーティの実力を示すものとなります、例外を除いては六つの段階に分けられておりまして、何も実績のない方が冒険者として登録した場合一番下のランク、ブロンズからのスタートとなり、そこから実績や実力を認められる毎にランクが上がっていき、発行されるプレートの色や材質で一目で分かるようになっております」
そこで一度区切って、お姉さんは受付の下から次の羊皮紙を取り出した。
「これがブロンズのカラーです、普通に銅の色ですね、それから薄く緑がかったアイアンランク、そして黒色がブラックランク……シルバーランクは一流の証として冒険者の目指す一つの場所ですね。ゴールドランクは戦争時や災害級のクエストを乗り越えた冒険者に送られます、現在ここブレンドの支部でもゴールドランクは二人しかいないんですよ」
ブロンズ
アイアン
ブラック
シルバー
ゴールド。
成程、冒険者として登録した際に発行されるというプレートでランク分けしているという事だ、そしてルゥシカ村で神父見習いをしていたエイジに実績などある訳ないのでブロンズランクからのスタートとなるらしい。
「六つの段階ってことは、まだ上があるんですか?」
「はい、ゴールドの上にプラチナランクというエルドレット王国でも三人しかいない最上級のランクがございます、お目にかかる事があれば本当に幸運ですね」
プラチナ……ゴールドランクが災害級のクエストの達成というのだから、おそらくドラゴンや大量発生したモンスターの討伐などを生き抜いた人達、そんな化け物みたいな人間よりもさらに上があるのか、エイジには想像もつかない世界だ。
「えぇ、ここに書いてないって事は本当に特別な人たちなんでしょうね、プラチナ……どんな色なんだろう」
「ふふっ、では登録に移りましょう、プレートを発行いたしますので、記入するお名前と戦い方、それと戦闘経験の有無をお教えください、戦争参加の経歴等があればアイアンランクからのスタートも可能となります」
「戦争に参加した事は無いです、えっと、戦い方……」
「例えば剣を扱うのでしたら『剣士』や『戦士』、槍を使うのでしたら『槍士』などですね、他にも『シーフ』や体格や体力に自信のある方でしたら『ガード』『キャリアー』などの壁役や荷物持ちとして登録する方もいらっしゃいます」
カルレヴァ村のスラスルトがシーフとして登録していると言っていたが、そういう意味だったのか、そしてエイジは自分の戦い方について少し考えてみる。
詰まるところ自身の特技を記入する欄なのだろう、ならば魔術と……弓か、そして腰のマジックバック内の黒剣、剣士として登録するのは危険だから、此処は無難に魔術師として登録するべきなのだろう。
「じゃあ……『魔術師』でお願いします」
そう言った途端お姉さんの今まで変わらなかった笑顔が少しだけ崩れた、意外な言葉に驚いた様子だ、不味い事を言ってしまっただろうか。
「『魔術師』ですか?えっと、お名前はエイジさん……でしたよね、魔術を扱えるのですか?」
「え、えぇ、魔術学校で勉強したわけではないですけど、ある程度は」
「失礼ですが、少々見せて頂いても?」
考えてみればきちんと学んだわけではないのに魔術師を名乗るのは烏滸がましかっただろうか、村長宅の魔術本は潤沢していたと言っても地方の村にしては、というだけである。
弓士と名乗っておけばよかっただろうか、少しの羞恥と後悔を感じながら、右手の指先に小さな光を灯す、それを何度か点滅させた後、そよ風程度の風速でお姉さんの髪を靡かせる。
「まぁ……風と、光の属性ですか、それは珍しい……この支部には一人もいないですね」
「光、というよりは聖属性ですけど、村では教会で住み込んでいましたので」
「聖属性、神父の方々は基本的に教会に属したらそのままですから、冒険者になる事は珍しいんですよ、畏まりました、魔術師として登録いたしますので少々お待ちください」
「いいんですか?自分で言っておいてなんですけど、僕の魔術なんて殆ど独学ですよ?」
エイジの言葉に受付のお姉さんは先程よりもにこやかな笑顔で返してくれる。
「はい、私は問題ないと判断します、先ほどの光を出す魔術、それだけでも洞窟内のダンジョン探索には持って来いの魔術だと判断いたしました、前職が教会勤めですと残念ながら通例通りブロンズランクからのスタートとなりますが」
「大丈夫です、ありがとうございます……」
「あ、それともう一つ、このブレンド支部を拠点となさるかをお聞かせ下さい」
「拠点は、空欄でいいです……旅の途中ですから」
「それは残念です、ですが魔術師はそこのギルドでも貴重です、まして聖属性はあまり見かけないので、何処のギルドでも重用されると思いますよ」
美人のお姉さんに褒められるのは悪い気分ではないのだが、初めて感じる妙なプレッシャーに居心地の悪さも感じるエイジなのであった。
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