後編
「その条件呑んだらティッシュがゴミ箱に入るだけで橋本環奈が俺のこと好きになるんですか?」
「なるよ、神の力が保証しよう」
「え、俺の知ってるやつですよね? 同姓同名とかじゃなくてあの橋本環奈ですよね?」
「あの、がどの、かは知らんが君の知ってるその橋本環奈が君を好きになる事を保証しよう」
男の一世一代の大勝負の時が来た。
彼女と来た夜景の見えるレストランでもなく、友と青春をつぎ込んだ九回裏の打席でもなく、電気つけようか迷うくらいの時間の部屋の隅でだ。
しかしあまりにも幸せに対して不幸の現実味が凄すぎる。そのイメージのリアルさが俺を迷わせた。軌道の記憶が既にない。入るかどうかは正直五分五分といったところか。
神は何やら瞑想をしている。俺は牽制を入れることにした。
「あの……今から願いを変えるとかって効きます?」
「ん? ああ、構わんよ」
「例えばちょっと良いことあるとかだったら罰はどんなのになります?」
「うーん……ちょっと悪いことかな。炊飯器のスイッチ押し忘れるとか? それくらいの」
戦える範囲になってきた。日常のちょっと嬉しいことにはちょっと嫌なことなのだ。
これで行こう。橋本環奈はもう良いじゃないか。きっと身近にも可愛い子はいるさ。見た目より中身だろ人間。良いお菓子とかでいいよ嬉しいし。
「決まったかい?」
「はい。 このティッシュが入ったらお土産菓子が一箱もらえる、にします」
「ふむ、わかった。では時間を動かそう」
その瞬間ティッシュは動き出す。
1秒もない時間がスローモーションにうつる。丸めたシワまではっきりと目に焼きつく。心臓は高鳴り拍動の一回一回さえ体を揺らし空気まで揺らしてしまうようだ。握った手にはじっとりと汗がにじみ顔は火照っていた。
翻弄される人間の希望と不安、暇を持て余した神の遊び心を乗せてティッシュはスルスルと落ちて行き、ゴミ箱の側面にあたって床に落ちた。
パカンッ!っと快音がなりゴミ箱のあった位置に神の杖が降られる。
ゴミが部屋を飛び散り、神が杖を振る。
この光景は一生忘れられないだろう。
「それじゃ」
一言残すとチラチラっと光り、神は姿を消した。
外を見ると日は沈んでいた。俺は部屋の電気をつけ神の力によって与えられた罰を片付ける作業に取りかかった。
謎の男の行方は、誰も知らない。
功罪と賞罰 天洲 町 @nmehBD
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます