第156話 2日目?-3

ブ「あら? ちゃんと戻ってきたのね、偉いわワンちゃん。それに、綺麗なワンちゃんを連れてきてくれたのね。」

メ「どこに居るのだ、女神ランクⅡの悪魔と言うのは?」

レ「そこのブラッドサキュバスがカリヴィアンになるんだ! 魅了を使ってきたから間違いない!」

ブ「何を言って……? 魅了……?」


前回と同様、ブラッドサキュバスが魅了と言う言葉に反応してガクガクと体を震わせる。あまり見ていたくは無いが、目をそらすわけには行かない。白目になり、口から泡を吐き、腹が割れてミノタウロスの様な悪魔が出てきた。


カ「あ・た・し、爆誕! ここに来るのが予定よりも少し早かったわねぇ。おかげであたしのお肌の張りが悪いわぁ。」


そう言いつつマスキュラーポーズをとっているカリヴィアン。お肌の張りは分からないが、見た目は以前に見たままのブーメランパンツ1枚だ。


メ「久しぶりだな、カリヴィアン。」

カ「誰かしら、あなた。ビューティフルアイ! 鑑定失敗ですって?」


言葉とは無関係にマッスルポーズをとるカリヴィアン。ビューティフルアイとやらが鑑定の事だったのか? それにしても、メィルはこいつにあった事があるのか? カリヴィアンはメィルの事を知らないみたいだが。


メ「覚えておらんのも無理はない、まあ、思い出したところで見た目も多少違うがの。」

カ「鑑定妨害があるってことは、少なくとも上位女神かしらん? それとも、偶然スキルを手に入れたのかしらん?それにしても、見た目によらず強いのよね?」

メ「今のランクはⅢと言ったところかの。しかし、期待通り、私は強いぞ?」

カ「オホホホホ、あなた知らないのね。女神の強さはランクが全てよ。ちなみに、私は元女神ランクⅡなのよね。」

メ「元男神ランクⅡ、にきちんと訂正しておいた方が良いのではないか?」

カ「だまらっしゃい! あたしの心はとっくに男である事を捨てたのよ!」


メィルは毎回相手を怒らせているな。そのおかげと言うべきか、無駄にポージングを取らずに攻撃態勢に入っている。カリヴィアンはジリジリと間合いを調整し、メィルの方は自然体で待つ。メィルから攻撃する様子は無いので、カリヴィアンが何かするのを待っているのだろうか。


カ「来ないなら、こちらから行くわ。魅了!」


カリヴィアンが魅了を使う事は分かっていたので、俺はすでに魔法の射線上から離れている。どういう理屈かは分からないが、カリヴィアンの魅了は目に見えるのだ。それなら、躱せばいいと思うだろうが、何故か躱すことができない。実際、メィルも躱せずに魅了に当たる。まあ、ワザと当たった気がしないでも無いが。


メ「それで、魅了してどうするのだ?」

カ「とりあえず、全ての装備を外して全裸になりなさい。私の様に!」

レ「いや、お前は全裸じゃないだろ……。」


だからと言ってブーメランパンツを脱がれても困る。いや、むしろブーメランパンツ姿の方が卑猥なのか? どっちにしろマッチョの全裸に興味はない。そして、メィルの方はというと、自分のお腹付近の服を両手で持ち、たくし上げ……ない。


メ「やれやれ、何を命令するのかと思ったら全裸になれとか……情報を少しでも得られると思ったのが間違いだったかの。」


メィルはパチンッと指を鳴らすと自分への魅了を解除したようだ。やはり、ワザと当たったのか。


カ「きーっ、生意気な小娘ね! でも、魅了が効いたという事は、魔力は私の方が上という事よ。食らいなさい! 岩礫(いわつぶて)。」


カリヴィアンの周りに大量の岩が浮かび、メィルに向かって飛ぶ。最初の一発がメィルに当たった段階でメィルは吹き飛ばされて壁に背中を打ち付ける。そして、破片や砂埃でメィルの姿が見えなくなる。そこへ、どんどんと岩がぶつかり、さらに砂埃が立つ。ダンジョンの壁は頑丈とはいえ、カリヴィアンの攻撃に耐えられなかったようで凹んだ上にひびが入ってきている。


カ「結構あっけなかったわね。さて、コアを回収しようかしら。あら? そこのお兄さんもあたしと遊びたいのかしらん?」


俺は全力で首を横に振る。カリヴィアンの方も、俺よりもメィルのコアを回収する方を優先したらしく、砂ぼこりに向かって歩いて行く。岩自体は魔法だったため消失し、瓦礫の山にはなっていない。


メ「けほっ、けほっ。こういう事なら風魔法でも覚えておけばよかったかの。ああ、ただの砂ぼこりなら透過すればよいのか。」


そんな声が砂煙の中から聞こえ、メィルが普通に歩いてくる。言葉の通り、透過を使ったおかげか、神装備だからか、服に汚れは見当たらない。


カ「なんですって?! 直撃したはずよね?!」

メ「自分で見ておったのではないのか? それとも、その牛の目では良く見えぬのかの?」


挑発されたカリヴィアンはピキリという音と共に血管を浮かべる。見たことはないが、スペインの闘牛でもあれほど怒ることは無いだろうというようなくらいに鼻息を荒くして真っ赤になっている。


カ「それなら、直接殴るまでよ!」

メ「!? 零、離れておれ! 間に合わぬか!」


メィルは地面に手を当てると、俺の前に土魔法のゴーレムが現れた。同時に、カリヴィアンも「直接殴る」とかいいつつ、殴ったのは地面だった。カリヴィアンを中心に衝撃波が発生し、俺の目の前のゴーレムがあっさりと砕けるのが見えた。


カ「ばかね! 人間なんて守るから、自分自身が無防備になるのよ。」


衝撃波は、一旦何かに当たれば、そこの部分の攻撃判定が止まるらしく、ゴーレムの幅の分だけ無事だった。しかし、何も当たることが無かったダンジョンの壁は衝撃で砕け、今にもダンジョンが崩れそうだ。


メ「範囲攻撃は止めてもらえんかの? ただでさえ狭いところが埋まってしまうではないか。壊れたところは直しておくかの。」


パンッパンッとメィルが手を叩くと、カリヴィアンが現れたところから今までに壊れた部分がすべて復元された。ワルキューレが壊したビジネスホテルの壁を、時間を巻き戻して直したのと一緒だ。おそらく大丈夫だろうと思っていたが、やはりカリヴィアンの攻撃は、物理、魔法共にメィルにはダメージが無いようだ。


カ「そんな……あなた、これでも本当に女神ランクはⅢだというのかしらん?」


カリヴィアンが滝のような汗をかいている。ラヴィ様の分身とカリヴィアンとの戦闘は見ていないが、その時は装備の差でゴリ押ししたと弥生たちから聞いていた。実際にステータスを見ている弥生

は「ロキエルの5倍くらい強かったですよ!」と言っていたが、ランクが同じでも強さには結構バラツキがあるようだ。


カ「中級魔族の中でも上位のあたしより、あなたのほうが強いって言うの? 嘘よ! 何かトリックがあるに決まっているわ! ……そうよ、きっと防御力と魔力耐性特化なのね?」


カリヴィアンがメィルに向かって走り出す。俺の目にも見えるくらいだから、メィルなら躱すのは簡単だろう。しかし、躱すかなぁ?


メ「そんな遅い速度で何をする気かの? ほれ、受けてやるから何かやってみるがよい。」


やはり、メィルは躱す気は無く、むしろ受けて立とうとしている。それを聞いてカリヴィアンの牛の口角があがった。


レ「メィル! あいつ、何か企んでるぞ!」

カ「もう遅いわよ! 防御力高い? これならいくら高くても関係ないわよ? 崩堅(ほうけん)!」


カリヴィアンの大木の様な右手の平がメィルを正面から叩きつける。不思議と弾き飛ばされることはなく、むしろ全ての衝撃が体内に送り込まれたかのように静かだ。


カ「これで死んだわね。防御力無視の格闘術よ。よくいるのよね、装備の防御力に頼った女神が。そう言うやつらを何度も葬って来たわ。」


カリヴィアンは、自慢げに話し、手を戻す。普通の女神ランクⅢなら1発で死ぬダメージだ。しかし、メィルがコアになる様子は無い。


カ「……変ね。立ったまま死んでいるのかしらん?」

メ「そんなわけがなかろう?」

カ「ぎゃああ!」


カリヴィアンは腰を抜かし、這いながらメィルから離れる。本当に倒せないのだと気が付いたのだろう。さっきまで真っ赤だったカリヴィアンの顔が、今では真っ青だ。


メ「それでは、いろいろと知っていることを話してもらおうかの?」

カ「話せるわけ無いじゃない! あんたよりもよっぽど怖いお方が居るのよ!」


話せるわけが無いといいつつ、微妙に黒幕が居る事を話している。すると、ポツリとどこからか声が聞こえてきた。

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