第157話 2日目?-4

グ「あー、話しちゃうんだぁ? ねぇ、いいと思ってるのぉ?」


レ「おえっ、何だこの臭い! く、臭い!」


カ「この臭いは……グレ、シル……さ、ま?」




カリヴィアンがギギギッと油の切れたロボットのように声の聞こえた方に振り向く。そこには、いつの間に居たのか女性が膝を抱えて座っていた。髪がぼさぼさで、前髪が顔の半分にかかっており、左目の下にはものすごいクマがある。服は、元は白かったのだろうか、全体的にくすんだ灰色になっているが、ところどころどう見てもカビだとしか思えない緑や黒のシミがある。神自身は垢など出ないはずだが、この臭いはずっと風呂に入っていないとしか思えない。




メ「グレシルか。相変わらず汚いのう。」




メィルはグレシルが居たことを知っていたのか、鼻をつまんで話している。臭いこそ防御力や魔力で防げないので我慢するしかない。




グ「汚いのが好きなのよぉ。でもね、裏切りなんて言う汚さは要らないわぁ。」


カ「ち、違うわよ! ちょっと口が滑っただけで話す気は無いわよ! だから、ね?」




カリヴィアンは自分で中級魔族の上位と言っていた。そのカリヴィアンがこれだけビビっている。あいつはまさか。




レ「……上級魔族?」


グ「あらぁ、物知りねぇ。それとも、この馬鹿が漏らしたのかしらぁ?」


カ「あ、あたしは漏らしてないわよ! あなた、余計な事を言わないでよ!!」




俺が予想で言ったセリフに想像以上にビビっているカリヴィアンが必死の表情で否定し、こちらを睨む。その顔色は青を通り越して白くなっている。




グ「もうどっちでもいいわぁ。さっさとコアにしてカールーの素体にでもしてしまえばいいのよぉ。」




グレシルはすくっと立ち上がり、両手を前にだらんとさせてカリヴィアンの方へゆっくりと歩いて行く。それによってカリヴィアンも腰を抜かしたまま下がる。しかし、ダンジョンの壁はすぐ後ろにあった。




メ「待ってくれんかの。そやつはどうなってもよいが、ここで戦われるとダンジョンが壊れるからの。」


グ「あんたわぁ……? まあいいわぁ、見ていなさい、私の戦いは破壊とは無縁よぉ。パンドラ。」




すっと手があげられると、カリヴィアンの頭の周りに緑色の霧が発生する。その霧を吸ったのか、カリヴィアンが叫びだす。




カ「ぐっ、があああぁ! 目が見えない! あぁ、吐き気が! おぉぉ、体中に痛みがぁ!」




攻撃によるダメージでは痛みが発生し無いこの世界で、痛みにのたうちまわる姿を見るとは思わなかった。




グ「それじゃぁ、聞こえてないと思うけどぉ、さようならぁ。神毒。」


カ「ああぁああぁぁ!」




痛みにあえぐカリヴィアンが、さっきより更に濃い緑色の霧に包まれる。カリヴィアンは神毒になった。カリヴィアンに4億ダメージ。カリヴィアンに4億ダメージ。カリヴィアンはコアになった。


あのカリヴィアンがこんなにもあっさりとやられるなんて……。ラヴィ様ならこいつにも勝てるのだろうか?


グレシルは、ゆっくりとカリヴィアンのコアに近づいて拾い、アイテムボックスへ放り込んだ。




グ「それでぇ、あんたわぁ?」




グレシルがぐるりと180度首を回してメィルを見る。ホラーすぎて怖い。それに、ある程度我慢できるとはいえ、臭いもきつい。掃除されていない公衆便所の臭いの方がまだ全然マシだ。この臭い、毒じゃないよね?




メ「私はメィルだ。せっかくの獲物を横取りされて少し腹ただしいと思っておる。」


グ「ふふふっ、ごめんなさいねぇ。こいつがあんまりにも馬鹿だから、つい手をだしちゃったわぁ。それでぇ、鑑定できないあなたはだぁれ?」




グレシルは首を90度横に傾ける。首が180度回っている上に横にも90度傾くとか、首が折れているようにしか見えない。夜にこれを見たら叫んで逃げるわ。




メ「こう見えても女神だが、それを聞きたいわけではあるまい?」


グ「何故こんなにも余裕があるのかなぁと思ってぇ。今の見てたわよねぇ? カリヴィアンがあっさりと死ぬところぉ。」


メ「そっちこそ見ていたのであろう? 私がそいつを圧倒していた所をの。」




グレシルはぐりんと今度は体を180度メィルに向け、首も元に戻す。鑑定が出来ない以上、どうすればいいのか図っているのだろう。




グ「私にぃ、勝てるとぉ、思ってるのぉぉお?」




グレシルが、少しイラッとした声で問う。その問いは言外に「勝てるわけ無いでしょ」というニュアンスが含まれているのが分かる。




メ「勝てないと思う。……と言ったら、見逃してくれるのかの?」


グ「逃がすわけ無いでしょぉ? 麻痺毒ぅ。」




グレシルから辺り一面に黄色い霧が広がる。あいつの言葉の通りなら、これを吸ったら麻痺する! 俺は思いっきり息を吸い込んで止める。




グ「馬鹿ねぇ、息を止めても無駄よぉ。皮膚呼吸どころか、触れるだけでも効果があるわぁ。」




グレシルから案の定、ダメ出しを食らうが、広範囲に広がってきているため回避する場所も無い。俺はマヒになって倒れる。ダメージは無いが動くことが出来ない。気持ち、呼吸すら苦しく感じる。




グ「あなたにはぁ、効いていないようねぇ。まさか、そのナリで無生物とかぁ?」


メ「馬鹿を言うな、しっかりと生物的な情欲をそそる体であろう?」




メィルは両手で胸を持ち上げるが、正直、寄せて上げてぎりぎり胸の谷間が出来るくらいか? それでナイスバディというには無理がある。が、その柔らかさは生物にしかありえないものだろう。ただ、科学が進んでシリコンとか何とかゴムとかで質感は皮膚ですっていうのを再現していなければの話だが。




グ「言ってみただけよぉ。麻痺が効かない装備ぃ? それとも、魔力だけ馬鹿高いとかぁ? あぁ、麻痺耐性もあるわねぇ。」




グレシルはブツブツと何故メィルにマヒが効かないのか考えているようだ。




メ「それで、もう終わりかの?」




メィルの言葉に考えを中断され、グリンとメィルの方を向く。いちいち大げさに見ないとダメなのかあんたは。




グ「ちょっと気になっただけよぉ。毒の霧はどうかしらぁ?」




グレシルからさっきに比べればすごく薄い緑色の霧が発生する。あれはイルナの使う毒より薄そうだが、麻痺している俺は当然回避も出来ないし、回避する場所も無い。零は毒になった。零に71ダメージ。




グ「やっぱりぃ、毒も効果無しかぁ。」




グレシルはあっさりと毒を解除する。どうせ効かないと思っていたから低レベルのスキルで確認しただけっぽい。さっきカリヴィアンを倒した毒を使われていたら、俺はもう死んでいただろうけど。




グ「信じられないけどぉ、私より魔力が高いのねぇ。ふふふっ、まあいいわぁ、私の魔力、高いって程じゃないしぃ。私ってぇ、見た通り肉体派なのよねぇ。」




見た通りと言われて見るが、どう見てもガリガリで病的な感じだけど。井戸から出てくる貞子さんのほうがまだ肉体派ですよ? と思っている間にダンジョンの壁に穴が開く。グレシルの攻撃を回避したメィルと、勢いのまま壁に穴をあけたグレシルが見える。




メ「何が『私の戦いは破壊とは無縁』じゃ、しっかりと壊しておるでは無いか。」


グ「うるさいわねぇ、毒が効かないあんたが悪いのよぉ。」




グレシルとメィルの姿が消えるたびに地面やら天井やら壁やらに穴が開く。流れ弾? にでも当たったら俺も死ぬ! でも、麻痺のせいで声も出ない。




ラ「そこまでよ。これ以上ダンジョンを壊さないで頂戴。」




さすがにこの騒ぎに気が付いたのか、リリスの連絡が付いたのか。ラヴィ様! と言いたいけど麻痺中で首すら向けられない。




グ「ラヴィかぁ。あんたも毒が効かないわよねぇ?」


ラ「グレシル……あなたは別に毒だけってわけじゃないでしょう。」


グ「2対1はぁ、分が悪いかねぇ? 多対一は私の望むところではあるんだけどねぇ、毒が効かないんじゃやる気も下がる。それに、ラヴィの相手はあいつに譲るかぁ。転移。」


ラ「待ちなさい! 結界!」




グレシルの転移に合わせ、転移封じの結界を張るラヴィ様。しかし、グレシルはあっさりとその結界を物理的に壊して行ったようで、パリンと乾いた音がした。




ラ「くっ、やはり短時間で編んだ結界では逃げられてしまったわね。それにしても、女神ランクⅡ相当の悪魔が現れたと聞いていたのだけれど、大丈夫かしら?」




ラヴィは倒れている俺に話かけてきたが、まだしゃべることができない。麻痺を解いてもらえれば……。




ラ「あいにく、麻痺を解除するアイテムは持っていないわ。一旦もどりましょう。メィル、あなたも着いてきなさい。その前に、ダンジョンを手分けして復元するわよ。」


メ「分かっておる。言われなくてもそのつもりだからの。」




ラヴィ様は相変わらず俺の心を読めるようで、麻痺であることに気が付いてくれた。倒壊の危機にあったダンジョンは、無事ラヴィ様とメィルの手で修復されたのであった。


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