第95話 ユウの手料理

そう考えているうちに、ヘルハウンドが3体近づいてくるのが見えた。ヘルハウンドはドーベルマンの様な感じだ。警戒しているのか、ゆっくりと近づいてくる。





レ「ユウ、何体相手にできる?」


ユ「3体とも相手にできますが、少なければ少ないほど負担が減るので助かりますね。」


ラ「私が一体引き受けましょうか!」


レ「いや、それはダメだろう・・。」





ラヴィがとんでもないことを言いだしたので注意する。未来のメィルですら言わなかったことだが、万が一恋による暴走ならそうそうにユウを消す必要が出てくるな。逆にラヴィがユウを守った場合、俺が死ぬかもしれんが。


考え中の俺を隙だらけと見たのか、ヘルハウンドの1体が俺に向かってくる。体感的にゆっくりと向かってきているので、ユウが言う通り3体同時でも相手をできそうだ。





レ「よっと。おっ、2体がユウの方に行ったぞ。」





俺はヘルハウンドの噛みつきを避けて腹をけり上げると「ぎゃんっ」とよだれを垂らしながら倒れる。こちらを見ていたユウの方に残り2体が向かったようだが、ユウは既に剣を構えている。





ユ「二段切り。」





ユウはヘルハウンドの足を切って突進の勢いを殺し、そのまま振りぬいた剣をもう一度切り返して斬りつける。2度目の斬撃で顔を斬られたヘルハウンドは、すぐに消滅した。俺はピクピクとしている目の前のヘルハウンドの心臓にスラタン刀を差し込み止めを刺す。ユウは最後の1体のヘルハウンドを、すれ違いざまに首を落とすと、ヘルハウンドは消滅した。





ユ「思ったよりも弱いですね。」


レ「そうだな、ほとんどオークと変わらない強さだ。」


ラ「お見事です。私が手を出す必要も無かったですね。」


レ「だから、手を出したらダメだからな。」





ユウの手助けをしたいラヴィに釘を刺しておかなければならないと思ったが、よく考えたら別に手伝ってもらってはダメともペナルティがあるとも聞いていないな?





レ「・・・、ラヴィが手伝った場合、何か問題があるか?」


ラ「私がメィル様から怒られますね!」


レ「・・・それだけ?」


ラ「それだけじゃないですよ! バレたら私の評価値が下がるじゃないですか。」





ラヴィが手を出しても俺が困るようなことは無いようだ。ならば、次に手を出そうとした場合に止める必要は無いな。





ユ「続々と来ましたよ。あれは、ライカンスロープですね。」





ここのライカンスロープは、腰に布を巻いただけの貧相な装備だ。また、狼ではなく虎だ。黄色と白の柄は背中だけで、腹は真っ白で綺麗だな。


ライカンスロープは軽くステップを踏むと、ジャブを打ってくる。俺は紙一重で避けてみる。ライカンスロープは次に蹴りをシュシュッと放ってくるが、それも避けてみる。苛立ったのか、ストレートを打ってきたので、カウンターでパンチを顔面に打ち込んでみた。





レ「えっと、弱いな。」


ラ「うーん、要改善ですかね。」





ラヴィも全く相手になっていないライカンスロープに疑問を覚えたのか、考えている。この結果、未来のライカンスロープが狼になったのかもしれない。


ユウの方にもライカンスロープが向かって行ったが、リーチの差は歴然で、ユウの剣が肩に当たってひるんだところを袈裟切りに斬って倒していた。


いつの間に着ていたのか、ヘルハウンドが遠吠えをする。複数のヘルハウンドが現れて口から炎を吐いてくる。





ユ「この程度の炎、僕には効きませんよ。」


レ「あちっ、熱いけどダメージは無いな。」





気持ちの問題なのか、ついつい火に触れると「あちっ」て言ってしまうな。ユウの知識も俺と一緒のはずなのに、あいつは平気そうだが。


ユウは炎の隙間を縫うようにしてヘルハウンド達に接近すると、胴を斬り、首を刎ね、眉間に剣を刺す。あっという間にヘルハウンド達は消滅していった。


それ以降、モンスターは出てこないようなので、ユウは剣を納め、俺も休憩する。





ラ「そろそろお昼にしますか?」





俺も腕時計を見ると、そろそろ12時のようだ。しかし、昼飯をどうするか・・。





ユ「僕がお昼を作りましょうか?」


ラ「えっ、作れるんですか? 食べてみたいです!」





ユウの提案で、お昼はユウが作ることになった。さすが俺の分身、分かっているじゃないか。


ラヴィの転移によって食堂へ着いた。材料はラヴィが用意するが、見たことも無い食材も多いため、似た様な食材に当てはめて餞別していく。目が8つある魚とか、足が20本ほどあるカニとか、真っ赤なウニっぽいものとかセーフかアウトか分からんものはユウに食ってもらって判断しよう。クモとかハエをでかくしただけの食材は例えうまいとしても却下だ。


ユウの手によって海鮮丼に近いものが出来た。残念ながら醤油は無いが、ワサビは似た様な物があったので、塩とワサビで誤魔化すか。





ラ「わぁ、おいしいです! ユウ様って料理がお上手なんですね!」


ユ「ラヴィの為に愛情を込めたから美味しく感じるんじゃないのかな? 食材も美人に食べてもらう方がうれしいと思うよ。」


ラ「まあっ。うれしいです。」





ラヴィは頬を赤くしてパクパクと食べ進める。俺は比較対象が未来の海鮮丼の為、そこまでうまいとは感じないが、愛情のせいではないと思う。





ラ「あれ、ユウ様は食べないんですか?」


ユ「作る過程でいろいろと食べてしまったので、大丈夫ですよ。」





ユウには一応毒見をしてもらっている。食っても死なないし、食わなくても死なない分裂体の利点だ。食っても死なないが、食ったら死ぬものは分かるみたいだし。実際、フグの様に見えた魚を食った時はダメージを負っていたからな。





ラ「ごちそうさまでした!」


レ「ごちそうさま。」





食後のお茶が欲しくなるが、怪しい葉っぱを入れただけの飲み物が出てきそうなので、どうしようか迷う。





レ「何か飲み物はあるか?」


ラ「ジュースならありますよ? ヤシの実でいいですか?」





ラヴィはそういうと、素手でヤシの実を割ってくれる。ヤシの実って昔からあるんだな。たまたま似ているだけか? 一応少しだけ飲んでみたが、大丈夫そうなのでそのまま飲むことにした。





食堂でしばらく雑談した後、腹も落ち着いてきたので眠くなる前にダンジョン攻略を進めることにした。


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