第94話 ユウ再び

通路が壁の様な物で封鎖されている。





レ「幻惑か。」





今の俺の魔力ならオークマジシャンの幻惑にはかからない。幻惑の壁の後ろに待機していたオークマジシャンを見破ると、分裂で作ったナイフを投げる。オークマジシャンは布のフードを被っているので表情は分からないが、驚いているはずだ。が、俺のナイフはオークマジシャンが持っていた木の杖に当たった・・・。俺、投擲スキル持っていないしな。一応、オークマジシャンが持っていた杖は俺のナイフによって折れて消滅した。





オ「ブモッ、ブーッ!」





何か文句を言っているのだろうが、言葉が分からない。オークマジシャンは木魔法を使ったのだろう、足元から尖った木の枝が生えてきたが、ウッドスライムの時と同様に俺の靴は貫けないようだ。


オークマジシャンは魔法が効かないと判断したらしく、逃げ出そうとしたが、俺はケルベロスを作るとオークマジシャンの足に噛みつかせた。





レ「悪く思うなよ。」





俺はスラタン刀を構えると、倒れ込んだオークマジシャンの背中に突き立てた。思ったよりも抵抗なく刺さり、オークマジシャンは光となって消えた。





ラ「魔力も高いんですか? 普通の人間ならオークマジシャンの幻惑はほぼ看破不可能なのですけど。」


レ「ああ、前に幻惑を食らったことがあるから知ってるよ。罠と合わせて不覚をとったから良く覚えている。」


ラ「そうだったんですか。やはり、経験者だとこのダンジョンは簡単過ぎますかね?」


レ「いや、簡単ではないと思うぞ。実際に何度か死んだことがあるからな。」


ラ「えっ、死んだことがある?」





ラヴィは小さく「人間なのに・・?」と呟いているのでマズイと思い、言い直した。





レ「ああ、死ぬ思いをしたことがあるんだよ、何度か。」


ラ「死ぬ思いですか、そうですよね。なんか聞き間違えたようです。」





ラヴィはテヘヘと照れたように言っているが、聞き間違えじゃないので指摘はしない。





ラ「もし、ここで源さんが死んでも私がすぐに蘇生させるので安心してくださいね!」


レ「できれば、死ぬ前に助けてほしいけどな。」


ラ「私が直接手を出しては意味が無いじゃないですかー。」





実際にどこまでが危険かは判断がつかないだろうしな。防御していると思っても、貫通して即死という事もありえるし、蘇生されるのが確定している分だけマシだと思うことにした。


またオークやハイオーク、オークマジシャンが出てくる。そこで、ふと思い出した。





レ「・・・水の玉。」





すると、10cmくらいの水の玉が現れてオークを吹っ飛ばした。そのままオークは消滅した。昨日は感じていた抵抗感を感じなかったので忘れていたが、俺はまだアイススライムと融合している様だ。グリフォンの時と違って見た目がまったく変わらんしな。俺は寝ているときに勝手に解除されなくて助かったが、いつ勝手に解けるか分からなかったので融合を解除した。すると、何もしていないのにスライムは消滅した。





ラ「あら、まだスライムと融合していたんですか。ダンジョンのモンスターは管理された階層から移動できないので消滅した様ですね。」





なるほど、どおりでずっと階段があるのに違う階層に移動しないわけだ。まあ、階層移動が自由なら、1階からすでに高レベルモンスターで溢れてしまうか。


俺は残りのオーク達もケルベロスを使って倒した。なんだかんだで自分で止めを刺すのは嫌なんだよな。





ラ「犬が好きなんですか?」


レ「ん? どうしてそう思ったんだ?」


ラ「だって、昨日から犬の様なモンスターを作っているじゃないですか。」


レ「こいつはケルベロスと言って、地獄の門番をしていると言われているんだ。カッコいいから好きだ。」


ラ「地獄・・ですか? 私は、カッコいいというより可愛いと思いますよ。」





俺はさすがに口の周りを血だらけにしている犬を可愛いとは呼べない。きちんと止めを刺して血が消滅した後なら撫でてやろうと思っていたら、ラヴィはケルベロスを撫でていた。まだモンスターを倒しきっていないんで邪魔しないで欲しいんだけど!





レ「じゃあ、これならどうだ? いでよ、ユウ!」





俺はカッコつけて召喚する様なポーズをとる。俺は伝説の勇者と言われるような豪華な装備と共にユウを作り出す。変化じゃないから装備の色は水色で固定だけどな!本当なら金色にしてゴールドセイントみたいな見た目にしたかったんだが。





ラ「あら、かっこいいですね!」





ラヴィは皮や布じゃない服にも興味があるようだ。





ユ「可愛いお嬢さん、ありがとう。僕の名前はユウと言います。貴方のお名前を聞かせていただいてもよろしいですか?」





ユウはラヴィにニコリと笑いかけると、ラヴィも「わぁっ」とまんざらでもなさそうに頬を赤くする。それはそれでなんかやるせない気になるが。嫉妬の力に目覚めそうだ。





ラ「えっと、私の名前はラヴィと言います。見習い女神をやっています。」





ラヴィは面接を受けに来た女子大生の様に緊張しているように見える。





ユ「そんなに緊張しなくてもいいですよ? 貴方は笑顔の方が美しいです。」





ユウはさりげなくラヴィの肩に手を置く。ラヴィも「はい・・。」と言ってそっとユウの手に自分の手を重ねる。





レ「そろそろいいか?」





俺は我慢できなくなって声をかける。ラヴィは「はっ!」と慌ててユウから離れる。





ユ「分かっていますよ。僕がモンスターを狩れば良いのですね?」


レ「分かっているならいいが・・・。」





知識は共有しているので、説明する手間が省けるのは助かるが、余計な事はしないで欲しい。いっそ美女の分裂体でも・・。そういえば、アラクネのコアってどうしたかな?





ラ「その顔、やめませんか?」


レ「へっ?」


ラ「いえ、何か気持ちの悪い笑顔をしていたので・・・。」





考えが顔に出てしまっていたようだ。俺は「コホンッ」と咳をしてやり直す。





レ「戦力の増強を図ろうかと思ってな? まあ、今はいいか。」


ラ「そうですね。まったく苦戦しているように見えませんので、戦力の増強は不要だと思います。」





ラヴィの対応が心なしか冷たくなったように感じる。俺は戦闘をユウに任せてどんどん進み、3階をクリアした。クリアしたと言っても、セーブ&ロードはラヴィだけどな!





レ「よし、この調子で4階へ行こう。」


ラ「そうですね。まだ昼食には早いですし。」





朝が早かっただけにまだ時間は早い。ここに時計は無いが、女神には絶対時間と呼べるようなものがあるのだろうか?





ユ「僕が先に行きますね。」





ユウを先頭に階段を上ると、ボロ布をまとったようなコボルトが待ち構えていた。手には黒曜石のナイフを持っている。前はコボルトの鎧に苦戦した様な気がするが、ここでは単なる獣人だな。





ユ「ラヴィ、下がっていてください。」


ラ「はい・・。」


レ「いや、ラヴィはいつも下がっているだろ。大体、俺の方の心配をしろよ!」





素直に下がるラヴィもラヴィだし、本体より強いラヴィを心配するユウもユウだ。コボルトもそれにイラッとしたのか「グルルルル」と唸っている。見た目が弱そうだから怖くはないけどな。


コボルトはナイフを器用に構えると、突進するように体重を乗せて攻撃してくる。今のユウは俺のステータスの半分くらいはあるはずなので、おそらくコボルト程度は余裕で倒せるだろう。





ユ「遅いですね。フッ!」





ユウは半身になって回避すると、ズザザと止まったコボルトに駆けていく。コボルトは再び突進しようとするが、それよりも早くユウの攻撃が届く。





ユ「十字切り!」





ユウは浅くコボルトの腹を斬ると、勢いをそのままに剣を上に持ち振り下ろす。コボルトは対応できずに真っ二つになって消滅した。消滅するまでの間がグロい・・。





レ「もう少し早く消えないかな?」


ラ「完全に絶命するまで消えませんよ? 例え首を刎ねてもしばらくは生きていますね。」


レ「怖い事を言うなよ・・・。」





コボルトの血の匂いに誘われた訳では無いと思うが、ホワイトファングも現れた。





レ「ユウ! 遠吠えをする前に倒せ!」


ユ「承知しました。」





ユウは遠吠えをしようと口を開けたホワイトファングの口に剣を差し込む。剣は喉を貫通してさらに頭まで貫通した様で、一言も発することなく消滅した。





ラ「さすがです! ユウ様!」


ユ「ありがとう、ラヴィ。」





ラヴィは胸の前で手を組んでキラキラの笑顔でユウを褒める。ユウはニコリとラヴィに微笑んでから、血糊のついていない剣をブンッと振ってから鞘に納める。まあ、剣も実質ユウの体の一部みたいなものだが。





下手にラヴィとユウの恋愛とか始まったら困るのだが。今消すわけにも行かないし、どうしたものか。

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