第92話 ラヴィの手料理
階段を上りスライムの階に着いた。
ラ「ここはスライムが出てきます。魔法を使ってくるので気を付けてくださいね。」
レ「ああ、分かった。」
知っていると答えるわけにもいかないだろう。俺はビックスライムの分裂体である通常のスライムをスラタン刀で中心のコア事切り裂く。スライムはゼリーの様に飛び散った後に消えた。
ラ「ここのモンスターもあっさり倒せるんですね! スライムの倒し方を知っていたんですか?」
ラヴィがコテッと首を曲げて尋ねてくる。
レ「前に戦ったことがあるんだ。」
ラ「さすが冒険者さん、経験が豊富なんですね!」
ラヴィは目をキラキラさせながら見ている。俺は念のため分裂で盾と防具を作った。あっちと違って装備した箇所しか守られないからだ。分裂も大分慣れたもので、変化程ではないがある程度の形は自由に作れるようになっていた。
ファイアスライムとウッドスライムが出てきた。ファイアスライムが火の玉を飛ばしてきたのを盾で防ぐ。表面が少し焦げたが壊れる様子はない。同様に、ウッドスライムが足元から木の枝を槍の様に生やしてきたが、分裂で作った靴を貫通することは無かった。
俺は盾を構えてスライムたちに接近すると、スラタン刀でウッドスライムを切り裂いた。ウッドスライムは光となって消えた。ファイアスライムの火の玉を再び盾で防ぐと、ファイアスライムを踏み潰す。ファイアスライムのコアが割れて、光となって消えた。
レ「思ったより戦えるな。」
まあ、ここのステータスは確か100以下だったから普通に余裕なんだが、どう変更があったか分からないし、緊張する。
ラ「全くダメージを受けていませんし、余裕そうに見えますよ!」
ラヴィは「その調子で頑張ってください!」と応援してくれた。
アイススライムが出てきたとき、ふと試したいことを思いついた。俺はアイススライムを捕まえる。アイススライムはウネウネと逃げ出そうとするので、分裂体の箱を作って入れる。
ラ「そのスライムをどうするんですか?」
レ「こうするんだ。融合!」
俺は箱の中のスライムに手を突っ込むと融合を使う。すると、見た目は変わらないが、水魔法を使える様になった。ただ、抵抗するような意識を感じるので、コアと違って長時間の融合は無理そうだ。
丁度、サンドスライムが現れたので試してみる。
レ「えっと、水の玉?」
俺の手から10cmくらいの水の玉が出てサンドスライムに当たる。すると、見た目以上にダメージがあるのか、サンドスライムがパァンと飛び散った。
レ「うぉっ、ビックリした!」
ラ「うえぇ、こっちにも飛び散ってきたじゃないですか!」
さすがにラヴィ様はこの程度は回避できるようで、当たってはいない。壁に飛散した黄色いゼリー状の物体は光となって消えた。
ついでに、アイススライムの意思の抵抗を受けて融合が解除されようとするが、雑魚いスライムでは俺の融合を解除できないようだ。
俺は調子に乗ってスライムを水魔法を手加減しながら使って倒していった。すると、2階の階段付近にビックスライムがいるのが見えた。
レ「ふっふっふ、一度やってみたかったことを試させてもらう!」
ラ「はわーっ、大きいですねぇ。」
俺はMPを1000程使用し、巨大な剣を作り出した。長さにして5m程。天井に当たらないように頭上に構えると、ビックスライムに振り下ろす。ビックスライムは数体のスライムを分裂で作り出している途中で真っ二つになり、光となって消えた。
ラ「おー、かっこいいですね!」
レ「おっ、ラヴィにもわかるか? この大剣のかっこよさが!」
俺は大剣を横なぎにスライムたちを葬り去る。ただ、階段は狭くて持ち込めなかったので大剣は破棄した。弥生の変化と違って俺の分裂は一回作ると変更が効かないんだよなぁ。
ラ「もう3階もいっちゃいますか? お腹は空いていませんか?」
レ「おっと、もう12時か。じゃあ、食堂へ行こうか。」
ラ「はいっ、腕によりをかけて作りますよ!」
ラヴィ様も昔は料理が出来たのか? 俺は不思議に思いながらラヴィの転移で食堂に着いた。
レ「……これが食堂?」
ラ「はいっ、そうですよ?」
全てが石だ。ここは石器時代か?いや、もっと昔の可能性もあるな。
ラ「ちょっと待ってて下さいね!」
俺は石の椅子に腰かけると、石のテーブルを撫でる。これ、大理石か?頭打ったら痛そうだなとか考えているうちに、ラヴィが料理を持ってきた。
ラ「どうぞ食べてください!」
葉っぱの上に何かの肉がデンと置かれている。うん、比喩でも何でもなくただの焼いた肉だ……。
ラ「どうしたんですか? 食べないんですか?」
俺は恐る恐る肉をかじる。……調味料も何も使われていない、ただの焼いた肉だ……それもちょっと生の部分もある。
ラ「おいしいですか?」
ラヴィがニコリと微笑んでいるので、まずいとは言えない。言ったら殺されるかもしれない。
レ「お、おいしいよ? 素材の味が生かされているというか、素材そのものと言うか……。」
ラ「えっへん、こう見えても料理できるんですからね!」
ラヴィは胸を張っているが、これを料理と呼ぶならば、俺は電子レンジで温めただけの物も料理と呼ぶね!
ラヴィが見張っているので肉を捨てるわけにもいかず、吐き気を我慢しながら食べた。
レ「ごちそう……さまでし……た。」
ラ「お粗末様でした! 夕食も作ってあげますね!」
レ「いや、今度は俺が作ってあげるよ。ほら、毎回作ってもらうのも悪いし。」
ラ「そうですか? いつでも作ってあげますのでまた言ってくださいね!」
ラヴィはニコニコと悪気はなく提案してくれるが、もう頼むことは無いだろう。俺は自分の水魔法で水を出すと、ゴクゴクと飲んだ。
レ「……ところで、トイレはどこかな?」
ラ「あっ、はい! こっちですよ。」
俺はトイレに入ると個室へ急いだ。それから10分後。
ラ「大丈夫ですか?」
レ「もうちょっと……。」
それからさらに30分後。
ラ「……大丈夫ですか?」
レ「もう、ちょっと……。」
それからさらに30分後。
ラ「本当に大丈夫ですか?」
レ「今日はもうだめかもしれん。」
それから落ち着いたのはさらに2時間経った後だった。いや、1時間でだいたい落ち着いたんだけど、何も出なくても何かでそうで、トイレから出られなかったのだ。
ラ「えっと、私の料理が原因でしょうか……。」
レ「さあ、分からん。融合の副作用かもしれないしな。」
ラ「……お気遣いいただきありがとうございます。」
さすがに誤魔化せないか。しょんぼりしているラヴィと撫でてみる。
ラ「くすぐったいです。」
けれども、ラヴィは手を払う事はしなかった。なされるがまましばらく撫でた後に手を離すと、ラヴィは少し名残惜しそうだった。
レ「今日はもう休むことにするよ。どこで寝ればいいかな?」
ラ「ダンジョンの隣に小屋がありますので、そちらで休んでください。」
ダンジョンの隣にある小屋は、100%木を組み合わせただけの小屋だった。まあ、想像していたよりはマシだけどな。正直、縄文時代並みを覚悟していたからな。
ラ「また明日、日が昇ったら迎えに来ますね。」
レ「ああ、よろしく頼む。」
この時代には時計が無いのか、太陽の動きで判断するようだ。今の季節はいつかは分からないが、冬では無さそうなのでそれなりに早起きになりそうだな。
歯ブラシが無いので塩水でうがいだけして、布団代わりにワラを腹の上に乗せた。……塩あるじゃん。俺は明日の朝食は何になるのか戦々恐々しながら眠りについた。
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