第91話 見習い女神のラヴィ

ラ「大丈夫ですか?」





気が付くと、まだダンジョンのフロントに居るようで、ラヴィ様がいる。





レ「あれ? ラヴィ様、着替えました?」





ラヴィ様はいつものスーツでは無くて、動物の皮の様な物を着ているというか、まとっている程度の服装だった。





ラ「あら? 自己紹介をしましたっけ? 服装はいつもこれですよ?」





ラヴィ様は不思議そうな顔をして返事をしてくれる。





レ「あと、俺の仲間は無事ですか?」


ラ「ここにはあなただけしか転移してきていないようですけど。どなたに召喚されたんですか?」





微妙に話が噛み合ってない気がする。しかし、返答しないわけにもいかないだろう。





レ「ラヴィ様もご存じの通り、メィルですよ。」


ラ「まぁっ! メィル様ですか! あなたはエリートなのですね!」





ラヴィ様の反応がおかしい。最弱の見習い女神とか、やっぱりメィルね、くらいの扱いだった気がするが。





ラ「あっ、申し遅れてすみません! 私、ここの担当になった見習い女神のラヴィ=キラーと言います!」





そう言うと、ラヴィ様はペコリとお辞儀をした。





レ「・・・見習い女神?」


ラ「はい、そうです! ダンジョンの管理は見習い女神の仕事なのです!」





ラヴィ様は両手をグッと握ってやる気をアピールする。見習い女神のラヴィ様ってことは、ここは過去か?





メ「ほぉ、先に来ていたのか。」


ラ「メィル様!」





ダンジョンの入口からメィルを大人にした様な女性が歩いてくる。実際、ラヴィ様がメィル様とか呼んでいるのでメィルなのだろうが・・・。服は白いワンピースのようなゆったりした布の様な服装だ。





レ「メィル・・なのか?」


メ「そうだ、私がメィルだ。異世界の冒険者よ、これからよろしく頼むぞ。」


レ「えっと、何をすれば?」


メ「これからダンジョンの試験を行うのだ。その為に呼んだのだぞ?」





メィルは作られたばかりのダンジョンを本格的に稼働する前のモニターとして召喚したと説明してくれた。





メ「ここは特に初心者向けにするために、始まりのダンジョンと名付けたいと思う。」





俺が通っていたダンジョンははじまるのダンジョンだから、そんなに変わらんな。





レ「さっきラヴィ様にも聞いたんですが、俺の仲間は知りませんか?」


メ「今回は試験なのでお主一人だけしか召喚しておらん。」





あの黒いので召喚されたのは俺だけだったのか? なんか腑に落ちないが、戻れるのか?





レ「えっと、戻る事ってできますか?」


メ「まだ初めてもいないのにもうリタイアか? 気が早すぎるだろう。死ぬことは無いから少し入ってみてはどうだ?」


レ「そうじゃなくて、元の場所に帰れますか?」


メ「それでは、クリアしたら時間を巻き戻したうえで元の場所に返してやろう。 私はこう見えても上級神なのでな。」





メィルは胸を張って自慢するが、見習い女神のメィルしか見ていない俺は懐疑的だ。





メ「その証拠にお主にスキルを・・・と思ったがもう持っているのか。他に何か欲しいスキルはあるか?」





欲しいスキルか。透明化とかは弥生に禁止されているからなぁ。





レ「分裂はできるので、融合なんてどうでしょうか?」


メ「融合か。まあ、面白そうだから良いだろう。ほら、頭を出せ。」





メィルが俺の頭に手を置くと、温かい光が降り注ぎ、俺は融合を使えるようになった。





源零:HP5013、MP4010、攻撃力610、防御力1200、素早さ900、魔力800、スキル:分裂、MP自動回復(小)、融合、装備:スラタン(刀)・攻撃力250、スラコート・防御力200





メ「これでいいだろう。どうだ?」


レ「どうだと言われても・・そうだ、融合!」





俺はポケットに入っていたグリフォンのコアに融合を使ってみた。すると、俺の背に翼が生えてグリフォンのスキルが使えるようになった。イルナの憑依と違って有効時間は無さそうだ。融合してから気が付いたが、解除できるのか? あっ、できた。よかった。





メ「ほぅ、面白いな? 融合したのは何だ?」





メィルは俺から無理やりグリフォンのコアを奪うと、しげしげと見つめる。





メ「これは、封印玉か? 面白い。スキルを与えた代わりに一つもらうとしよう。いくつか持っているのであろう?」





メィルは勝手にそう言うとコアをアイテムボックスにしまった。





メ「ほら、そろそろダンジョンへ入れ。ラヴィ、お前が着いていけ。私は忙しい、さらばだ。」





メィルはそう言うとどこかへ転移していった。





ラ「よろしくお願いします! えっと・・・。」


レ「源零だ。よろしく、ラヴィ様。」


ラ「まだ見習いなのでラヴィでいいですよ! よろしくお願いします!」





俺は呼び捨てするかどうか迷ったが、本人が良いというのでラヴィと呼ぶことにする。





ラ「それではこちらに来てください。1階はゴブリンです。」





ラヴィと一緒に行くと、通いなれた扉があった。そして、ラヴィは扉の横のホワイトボードを指さす。





ラ「これ、面白いんですよ! 触れると、触れた人のステータスが見られるんです! すごいですよね!」





ラヴィはハイテンションで説明してくれるが、いつものラヴィ様と同じ姿で様子が違うと困惑の方が大きい。俺が試しにホワイトボードに触れると、エラーと出た。





ラ「あれ、おかしいですね? 故障ですかね?」





ラヴィはそう言ってホワイトボードに触れる。





ラヴィ(見習い女神):HP70000、MP50000、攻撃力3000、防御力1000、素早さ30000、魔力5000、スキル:千里眼、異世界召喚、蘇生、物理耐性(大)、魔法耐性(大)、HP自動回復(大)、MP自動回復(大)、飛行、転移魔法、空間魔法(8)、時空魔法、火魔法(8)、水魔法(8)、木魔法(8)、土魔法(8)、風魔法(8)、闇魔法(8)、光魔法(8)





うわぉ、見習いですでにランクⅤのワルキューレ並みのステータスだ。こう見ると、本当にメィルは弱い見習いだったんだな・・・。





ラ「壊れてないですねぇ。これじゃあ源さんのステータスが見られないです。困りましたね。」





レ「えっと、ラヴィは鑑定が使えないのか?」


ラ「とんでもないですよ! 鑑定なんて高位の女神様くらしか使えませんよ!」





そうなのか。鑑定って結構レアスキルなんだな。





レ「まあ、ゴブリン程度には負けないから安心してくれ。」


ラ「万が一、死んでも蘇生できますから任せてください!」





ラヴィがドンと自分の胸を叩くと、ケホケホとむせている。ラヴィ様も見習いの時はこんな感じだったのか・・・。


俺はダンジョンの1階に足を踏み入れる。久しぶりの1階だ・・まあ、他の階と作りはほとんど一緒なのだが。


さっそくゴブリンが現れる。見た目は一緒だから恐らくステータスも一緒だろうが、先制攻撃させてもらおう。俺は攻撃力1のナイフを分裂で作り出すと、ゴブリンに向かって投擲した。投擲スキルは無いが、ゴブリンの腕に当たってゴブリンの腕がちぎれる。ゴブリンは痛みに「グギャギャ!」と叫びながら転がっている。





レ「うげっ、コアにならない!?」


ラ「コアってさっき源さんが持っていたやつですか? 普通、生物はコアになんてなりませんよ?」





ラヴィがもっともなことを言うが、コアに慣れていた俺にとっては生々しい戦闘に忌避感が生まれる。それを躊躇ちゅうちょしていると捉えたのか、ラヴィがアドバイスをくれる。





ラ「倒しちゃっても大丈夫ですよ! 蘇生して再利用しますから。」


レ「それを心配しているんじゃないのだが・・。いけ、ケルベロス。」





俺は自分で止めを刺すのが嫌で、ケルベロスを作るとゴブリンに攻撃させる。首を噛みつかれたゴブリンは、光となって消えたが、コアは無かった。ちぎれた腕や血も一緒に消えたようだ。残っていたらもうこの道通れないよ!





ラ「やりましたね! さすがエリート、この階は余裕そうですね!」





ラヴィは喜んで拍手してくれているが、俺は微妙な感じがした。





レ「コアなしでどうやってステータスを上げるんだ?」


ラ「え? ステータスって自分で上げられるんですか?」


レ「じゃあ、どうやって強くなるんだ?」


ラ「戦闘経験ですかね? こう、敵を倒す時におりゃーとか、とりゃーとか気合入れるとか。」





良く分からないが、ここではステータスは自動で上がるという事か? とりあえずコアを割ってステータスを上げるという方法が使えないことが分かった。


そうしているうちに、ゴブリンがもう一体現れた。俺はケルベロスを待機させると、攻撃を食らってみることにした。ゴブリンは俺に向かって爪で攻撃してくる。俺は掌でそれを受け止めた。





レ「痛っ!」





体感的にダメージを受けてはいないが、紙で指を切ったときみたいな痛みを感じた。ステータスでの0ダメージというのが無いのだろうか。一旦倒してしまおう。





レ「やれ、ケルベロス!」





ケルベロスはゴブリンの足に噛みついて引き倒し、首に噛みつき直して止めを刺す。ゴブリンは光となって消えた。掌を改めてみるが、傷は無い。





ラ「わざと攻撃を受けたんですか?」





ラヴィはおかしな行動をするなと思ったのか、首をかしげている。





レ「こう見えても、防御力には自信があったんだ。たぶん、ラヴィの攻撃を1回くらいは耐えれるくらい。」


ラ「へぇ、その話が本当なら、もはや人間じゃありませんね!」





ラヴィは冗談と取ったのか、キャハハと笑っている。





レ「ちなみに、戻りたくなった時はどうするんだ?」


ラ「え? トイレですか? 転移で戻りますか?」





戻りは転移らしい。それと、ここにトイレは無いようだな。





レ「いや、まだ大丈夫だ。単に確認したかっただけだ。」


ラ「そうですか。トイレがしたくなったら我慢しなくてもいいですからね! 漏らさないで下さいよ?」





ラヴィの余計な一言を受けて、立ちションしてやろうかと思ったが、殺されそうなのでやめた。この世界、痛みを感じるし・・・。


俺はサクサクとゴブリンを倒しながらマッピングをして進む。





ラ「さすが冒険者さん、慣れていますね!」


レ「いや、冒険者じゃないが・・、いや、冒険者か?」





やってることは冒険者っぽいからそれでいいか。いつも基本的に黙ってついてくるワルキューレやメィルなんかと違って、こうやって話しかけてくれると何かうれしいな。俺は少しやる気を出してゴブリンを倒して行った。マッピングをしていて気が付いたが、これ、未来のダンジョンとマップが一緒だ。俺はエレベーターの方へ歩いて行く。すると、階段が見えた。





レ「ん? エレベーターが無いな・・・。」


ラ「え? エレベーターって何ですか?」





俺の独り言が聞こえたのだろう、ラヴィが質問してくる。よく考えたら、ここが過去ならエレベーターが作られるのは当分先の話じゃないかと思い当たった。





レ「いや、何でもない。どうしたらクリアになるんだ?」


ラ「あっ、説明していませんでしたね。階段を上って行って、10階のボスを倒したらクリアです!」





俺が意図した質問とは違った答えが返ってきたところを見ると、1階ごとのクリアはやはり無いようだ。





レ「じゃあ、途中でトイレとかで帰った場合、また最初からになるのか?」


ラ「いえっ、その時は私が同じ場所へ転移しますから大丈夫ですよ!」





自動セーブ&ロードみたいな感じか。未来よりよっぽど楽だな。担当の見習い女神は大変かもしれないが。

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