第83話 惑星アヌビス2

フ「アヌビス様、準備が整うまで、少し話をお聞きしてよろしいでしょうか?」


ア「うむ。わかったのじゃ。」




そう言うと、ファラオは自室に招いた。俺のなんちゃって知識だと、そうそう王の自室に入れる人っていなかったような気がするが、ここでは違うのか?




フ「ここなら、誰にも話を聞かれることはない。気楽に話そうではないか。」




ファラオは俺達に気を使ってくれたようだ。




フ「まず、ご主人様とは何ですか?ゴシュ=ジンという名前ですか?」




ファラオは混乱しているらしい。さっき自己紹介したじゃないか。それを聞いてアヌビスとメィルは爆笑し、弥生は笑いをこらえている。イルナは無表情で眠そうだ。




ア「それでは、簡単に話をするのじゃ。まず、ここでの戦いが終わって、異世界に転移してからじゃが・・・。」




アヌビスは簡単に話をした。悪魔の事、ワルキューレ達の異世界の神の事、俺に復元された事。




フ「それでは、すぐに再生の儀式を行いましょう!!」


ア「慌てるな、まだその必要はないのじゃ。」


レ「再生の儀式ってなんだ?」


ア「再生の儀式とは、我が倒されたとき、再びよみがえらせる為の儀式だ。これを行うと、我は再び神としての力を取り戻すことが出来るのじゃ。」


ヤ「? すぐに戻れるのに、必要ないんですか?」


ア「それには、大量のいけにえが必要になるのじゃ。数十人、下手したら数百人規模の、な。」


ヤ「それは・・・。」




いけにえになる人の事を思って、弥生の言葉が詰まる。




フ「我らアヌビスの民にとっては、神のいけにえとなる事は喜ばしい事です!」


ア「人口が減ってよいわけが無いのじゃ。ただでさえ侵略によって大きな被害を受けたというのに。」




俺達が見ていないところで被害が大きかったらしい。そんなところでピクニックとか、すごい不謹慎じゃないのかこれは。




レ「そういえば、侵略からまだ1か月も経っていないだろ? 大丈夫なのか?」


ア「メィルが居るではないか。」


メ「え? 私?」




急に何を言われたのかとメィルは慌てている。




レ「メィルに何が出来るんだ?」


ア「メィルは蘇生、時空魔法を使えるのじゃ。」


メ「私にそんなMPは無いよ!!」


ア「メィル自身のMPを使う必要はない。MPは集めるのじゃ。ファラオよ。」


フ「分かりました!すぐに!それまで、食事をしておくつろぎください。」




ファラオはそう言うと、慌てて部屋を出ていった。




ア「さて、我らは先に食事をするのじゃ。」




俺達は、ここに来て急に大人びたアヌビスに戸惑いつつも、食事をしに向かう。王の私室を出ると、大臣が戻ってきていて、案内してくれる。パン、ワインなどが用意されていたが、食糧事情が良くないのか、周りに仕えている人たちがやつれて見える。




レ「せっかくだから、俺達の持参した飯でもどうですか?」




メィルがある程度大食いしてもいい程度に料理を持ってきている。メィルは無限に食えるが、食わなくてもいいから大丈夫だろう。俺達は出された料理を食べて、側人達に別室で俺達の料理を食べてもらった。次に見た時には、すごく幸せそうな顔をしていたので、おいしかったのだろう。俺達は貴重な太古の食事を経験した。うまくはなかったが口には出さない。アヌビスがホットケーキを好きな理由が理解できた。




フ「準備が出来ました!」




王が自分でやっていい事なのだろうか?誰も何も言わないが気になった。




臣「こちらへどうぞ。」




大臣に連れられて城の地下に入る。すると、祭壇の時に見た様な魔法陣があった。近くに水晶がある。水晶はわずかに発光している。




ア「すまぬが、ここにMPを入れてくれぬか?」




俺達は水晶に触れる。MPが減る感覚がする。




イ「・・・MP、沢山あったほうがいい?」


ア「そうじゃな、出来るだけ多い方がいいのじゃ。」


イ「なら、憑依。」




イルナはヒノトリを憑依させる。ヒノトリはMP自動回復(大)があるので、無限に供給できるだろう。リミットはイルナの憑依時間だが。


しばらくMPを供給していると、水晶の発光が激しくなってきた。




ア「さすがは零達なのじゃ。あっという間に溜まってきたのじゃ。」


イ「はぁ、はぁ、もう、無理。」




イルナの憑依が解けるのと、水晶が七色に光るのはほぼ同時だった。




ア「満タンじゃ!」


臣「おぉぉぉぉ!」




大臣が感動で涙を流している。




レ「・・・どういうことだ?」


ア「あとは、メィルが蘇生か時空魔法で起動させてくれればいいのじゃ。」


メ「魔法はどっちでも使えるけど、どっちがいいの?」


ア「蘇生ならば、じょじょに元に戻り、時空魔法ならばあっという間に元に戻るじゃろう。」


メ「じゃあ、時空魔法のほうがいいってことだね!時空魔法!」




すると、魔法陣が光だし、ものすごい光が世界を包んだ。虹色に光っていた水晶は、真っ黒になっていた。




ア「さすがに、空になったのじゃ。」




大臣は、慌てて走っていく。俺達もついていくと、まるで砂漠の様だった街が、緑あふれる街になっていた。




民「ありがとうございます!神様!」


ア「今回は我の力ではない、メィルの魔法じゃ。」


民「メィル様、ありがとうございます!」




俺達は民が平伏するなかを通り過ぎ、祭壇のあった場所まで戻った。祭壇の周りはまるでジャングルのようになっていた。俺達が最初に見て違和感が無かった砂漠風じゃなくて、本来は緑のあるオアシスだったのか。




ア「みんな、助かったのじゃ。これで気分よくピクニックができるのじゃ!」




少し空いた場所にシートを引くと、各々くつろぐ。




ヤ「あれが、アヌビスちゃんの仕事だったんですか?」


ア「うむ、あの水晶にMPを入れ、魔法陣を蘇生で起動させると植物などが元気に育つのじゃ。」




水晶はタンクで、魔法陣は増幅装置みたいなものらしいな。




ア「住民もMPを補充するが、住民のMPは普通1桁しかないのじゃ。それに、時空魔法を持っておった者は、侵略によって殺されたのじゃ。」




そういえば、アヌビスも本来は鑑定を持っていたな。




レ「俺達も、最初はMP10とかだったな。」


ヤ「私は30ありました!人間にしては多い方だったんですね!」




まあ、神であるアヌビスもそんなに強くなかったから、この世界の住民が弱いだけかもしれないが。


その後、俺達は街の案内や、宴でさわいで楽しい時間を過ごした。




フ「行ってしまわれるのですか?」




ファラオが寂しそうに声をかける。




ア「長くても、あと1か月もしないうちに帰ってくるのじゃ。」




試験は後2週間くらいで期限を迎えるので、試験後にも残って何かするつもりか?




臣「我々は、またいつでも戻れるようにしておきます!」


民「行ってらっしゃいませ!」




大勢の民に見送られて、俺達は祭壇からビジネスホテルの前に帰ってきた。




ア「疲れたのじゃ~、零~!」




アヌビスは俺に抱きついてくる。小さかったアヌビスと違って今は膨らんだ胸が当たってドキドキする。




ヤ「くっつかないでください!」


ア「嫌なのじゃ! 癒されるのじゃ!」




戻ってきたとたんに子供っぽくなったアヌビスを見ると、あっちでは案外無理をしていたのか?俺はアヌビスを撫でてやる。




部屋に戻ってピザ、寿司、なぜかグラタンを注文し、皆で食べた。俺達は雑談しながら過ごしていると、ものすごく疲れた様なワルキューレが戻ってきて、闇の壁をプルプルしながら張ると、バタリと倒れて寝たようだ。弥生がやさしく布団に運んで寝かせると言っていた。闇の壁の上からアヌビスがジーッと尻尾を振っている犬のように見ていたので、手を振ってやった。


俺は歯磨きを終え、軽くストレッチをしてから寝た。


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