第46話 感染

レ「それにしてもHPの多い敵だったな。」


ヤ「弱点も首だけみたいですし、当て続けるのは辛いですね。さっきみたいに源さんに抑えてもらえれば当てれますけど。」





弥生はそういうが、俺はゾンビを掴んでいた手の臭いをかぐと、吐きそうになった。





レ「いやだ、もうゾンビに触りたくない。」





俺は分裂体を作り出すと、弥生の変化でハンカチにしてもらってゾンビ汁をぬぐった。


それからしばらく歩いたが、新たなゾンビは現れない。





レ「思ったより敵が出ないな?パニック映画みたいにぞろぞろ出てくるかと思ったが。」


ヤ「ぞろぞろ出てこられても対処できませんけどね。2体以上でたら1体は押さえてて下さいね?」


レ「・・・。善処しよう。」





する気はないけどな。もし出てきたらペプシでも作って捕まえさせるか。ところで、アヌビスが静かだな。アヌビスを見ると、くさそうに鼻を両手で覆っている。





ア「だんだんと臭いがきつくなってきているのじゃ。」


ヤ「ゾンビがまた近くにいるんですかね?」





俺達は一旦立ち止まると、廊下の角を覗いて確かめた。T字路になっていたが、両方に敵の姿は見えない。





レ「敵の姿はないようだぞ?」





アヌビスは鼻から手をどけ、臭いをかいでいる。すると、俺の方に向かって指さしてきた。





ア「おぬしがくさいみたいじゃ。」





失敬な、さっきゾンビ汁はぬぐったぞ。





ヤ「うっ、源さん・・、くさいです。」


レ「弥生まで・・。帰って風呂に入るか?」


ヤ「そうですね、一旦帰りましょうか。」





弥生はくるりと後ろを向くと、来た道を帰る。アヌビスもそれに続く。そして、俺は後姿の弥生をみてごくりとつばを飲み込んだ。弥生のお尻がうまそうだ。





ヤ「どうかしましたか?」





視線に気づいたのか、弥生が後ろを振り向く。





レ「いや、何でもない。早く帰ろうか。」





俺がそう言うと、再び弥生を先頭に帰る。後ろから見る弥生のうなじがうまそうだ。じゅるり。





ア「なんじゃおぬし、よだれなぞ垂らして。」





アヌビスはよだれをすする音が気になったのか、俺にそう注意してくる。俺はそででよだれをぬぐうと、弥生に近づいた。俺は弥生の肩に手を置くと、首に噛みつこうとした。しかし、一瞬早くアヌビスの蹴りが俺の顔に刺さる。零に0ダメージ。





レ「何をするんだ、アヌビス!」


ア「それはこちらのセリフじゃ!弥生に何をしようとしたのじゃ?!」





弥生もさすがに不審に思ったのか、俺を鑑定した。





ヤ「えっと、源さん、感染してますね・・。」





それを聞いて俺は愕然がくぜんとした。正直、実感が無かったからだ。確かに、弥生の事をうまそうだと思ったが、ごく自然にそう思ったのだ。





レ「まさか、感染してるとは・・。ダメージを受けていないから気にしていなかったんだが。」


ヤ「鑑定で感染があったのは知っていましたが、ゾンビが感染しているものだとばかり・・。」





弥生とアヌビスが俺から距離を取る。





ア「治す手段は誰が知っているのじゃ?」


ヤ「ワルキューレ様は見ていると思うのに来ないし、ラヴィ様は知っていそうですけどこの状態でダンジョンから出していいのかどうか・・。」


レ「メィルは居るか?」





そう言うと、メィルは転移で現れた。今日は透明化ではなく、千里眼の方だったか。





メ「呼びましたか?うっ、くさいです。何ですかこの臭いは!?」





メィルは鼻をつまむと、おえーっとえづく。





レ「いただきます。」





俺はその隙にメィルの肩を掴むと、首に噛みついた。クリティカル発生、メィルに150ダメージ。





メ「何するの、お兄ちゃん!?私はご飯じゃないよ!」


ヤ「メィルちゃん、源さんはゾンビに感染させられたんです。近づかない方がいいですよ。」


メ「言うの遅いよ、お姉ちゃん!?」





弥生はメィルを鑑定すると、メィルにも状態異常:感染となっていた。





ヤ「あーっ、メィルちゃんにも感染しちゃった。手に負えなくなるから、アヌビスちゃん、やっちゃう?」


メ「感染って何のこと!?アヌビス、闇の球を準備しないで!」





仮にメィルが俺と同じように食欲を抑えられなくなったら、この場の誰も止められないだろう。女神は死ぬわけじゃないので、一旦倒すのは処置としては正しいと思う。ケルベロスの時の八つ当たりではないと信じたい。





俺はもう食欲を抑えられなくなってきた、じりじりと弥生に近づくが、素早さは弥生が上なので永久に追いつけないだろう。アヌビスは食うところが無さそうだから余り食欲がわかないが、今より飢餓感きがかんが増したらどうなるか分からない。メィルもだんだんと目がすわってきて弥生を見つめている。弥生よりメィルの方が素早さは高いため、そろそろどうするか決めないと危険だ。





メ「お姉ちゃん、ちょっと食べさせて?」





メィルはふらふらと弥生に向かって飛んでいく。





ヤ「嫌ですよ!食べられるのも嫌ですし、感染するのも嫌です!」


メ「いいじゃん、おっぱい2個あるし、一つくらいくれても。」


ヤ「そういう問題じゃありません!」





弥生は胸を隠しながらじりじりと後退していたが、俺とメィルに囲まれて、とうとう壁に背中を付ける。





ワ「何をしているのだ、お前たちは。」


ヤ「ワルキューレさん!源さんとメィルちゃんが!」


ワ「千里眼で見ていた。本来、ゾンビに感染なんてスキルは無いし、ゾンビ自体もこのダンジョンには居ない。おそらく魔界の者が関わっている可能性がある。私はこの臭いをかいだ時から対応を考え、魔界にワクチンを取りにいっていたのだ。」





ワルキューレはドヤ顔して胸を張る。それならそうと言ってくれればいいのに。





レ「で、どうすればいいんだ?」


ワ「ワクチンを摂取しなければ、感染から1時間後にはゾンビになる。そうなったら、もう2度と治ることは無いだろう。蘇生自体出来なくなるしな。でも、今ならワクチンを飲むだけで治る。」



れがワクチンだと、ワルキューレは試験管をアイテムボックスから取り出す。まるで青汁のようだ。





ヤ「えっ、メィルちゃんはともかく、源さんはもう噛まれてから1時間は過ぎてますよ?」


ワ「なにーっ!?馬鹿な!はっ、そうか!魔界とここの時間の進みが違うせいか!」





ワルキューレはポンッと手を叩くと、原因が分かって安心したのか、うんうんとうなずいた。ただ、解決はしていないぞ。





ア「納得するのは勝手じゃが、こやつはどうするのじゃ?」


ワ「感染を防ぐためには、これ以上広がらない様にするしかない。」


ア「具体的には何をするのじゃ?」


ワ「コアにして封印するか、砕いて消滅させるかだな。」





ワルキューレは槍を取り出すと、俺に向けた。

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