第8話 購買とビジネスホテル

メ「おぉ、死んでしまうとは情けない!」




メィルは、目をつぶり、首を左右に振りながら言ってきた。




レ「うわっ、びっくりした!急に出てきてどうしたんだ?」


ヤ「源さん!よかったですぅ!今度こそダメかと思いました!」


レ「今度こそって、また何かあったのか!」




俺は弥生の方に向かおうと起き上がろうとした。




ヤ「あの、その前に、また、服を着てください!」




俺はいそいそとまた服を着なおすと、弥生からさっき起きた状況を確認した。




ヤ「源さんが少し赤い床を踏んだ時、天井から火の玉が降ってきて、一瞬で燃え尽きました!ダメージは99だったと思います。コアまで無くなったかと思ったけど、残っててよかったです。」


メ「ふむふむ、それはファイアーボールの罠(100ダメージ)だよお兄ちゃん!基本的に魔法ダメージは、相手の魔力から自分の魔力を引いた分ダメージを受けちゃうよ。気を付けてね!」




魔力には魔法防御の意味もあったのか。そういや、防御力はあるのに魔法防御は無かったな。あと、物理的に燃えるわけじゃなくて、ダメージエフェクトとして燃えるだけで服とか装備が燃えた様子は無いのは助かる。服が燃えて、ずっと全裸になるのはごめんだ。




メ「あ、あとは魔法やアイテムは購買で買えるよ?」


レ「そういう大事な事は最初に伝えてくれ・・。弥生、とりあえず見に行ってみるか?」


ヤ「そうですね、何の対策もなしにまた燃えても困りますしね!」




弥生に痛いところを突かれて苦笑いしながら、メィルに着いていった。




レ「ところで、なんでメィルが居るんだ?」


メ「ラヴィ様は、17時になったので帰っちゃいました。ラヴィ様は朝8時から夕方5時までの勤務時間なので。あ、私もある程度出来るから大丈夫だよ、お兄ちゃん!」


レ「残業なしのホワイト企業か!今日はもう疲れたから休みたい。購買を見終わったら休める場所に案内してくれ・・。あるよな?休める場所。」


メ「わかったよ!お兄ちゃん!」




メィルと雑談しながら購買に着いた。学校の購買部みたいな感じだけど、売っているものはアイテムばかりだ。攻撃力の腕輪、素早さの腕輪、回復剤、中級回復剤、火の魔法書、水の魔法書、ファイアーの巻物などなど。




レ「火の魔法書とファイアーの巻物は違うのか?」


メ「魔法書は、その属性の魔法スキルを得る物だけど、巻物は誰が使っても固定のダメージを与える物だよ!固定と言っても相手の魔力分ダメージが減るけど。」


レ「ところで、どうやって買うんだ?」


メ「コアを貨幣代わりに使って買い物するんだよ!そこの天秤の左側にアイテムを、右側にコアを置いて釣り合ったら売買成立だよ!」




メィルがカウンターを指さすと、そこには天秤があった。




ヤ「丁度使用していないゴブリンのコアがいくつかあるので何か買っていきましょう!」




弥生は、非常階段付近からここに戻ってくる間に倒したゴブリンのコアを使用せずにそのまま持ち帰ってきたようだ。




多分、即死した俺のステータスを上げてHPを増加させる予定だったんだろうけど、今まで出すのを忘れていたんだろうな。見た感じ、20個くらいあるみたいだ。それで何が買えるかな?




魔法に興味があったから、火魔法の書を乗せ、反対にゴブリンのコアを一つずつ載せていく。10個くらい置いても、天秤はほとんど動かないな。20個置いても数ミリ動いたくらいか?この感じだと200個くらい要りそうだな。




メ「コアにも価値があって、強いモンスターや珍しいモンスターを倒した時に出るコアの方が価値は高いよ!ちなみに、ゴブリンを1とすればスライムで5くらいかな?」


レ「じゃあ、今回は魔法を覚えるのは無理か。」




俺達は、相談し、ゴブリンのコア20個で回復剤を2個購入した。罠や戦闘でHPが減ったときに回復するためだ。この回復剤は固定でHPを200回復するらしい。中級回復剤はHPの50%回復らしいから、今のステータスなら回復剤の方がコスパはいい。




メ「それじゃあ、泊まる場所に行くよ!」




メィルはそういうと、ダンジョンから出た。外に出ると、日は落ちていて辺りは暗くなっていた。時間を気にしていなかったが、カバンから携帯を取り出し、時間を確認すると18時になっていた。ちなみに腕時計はしていない。




レ「そういえば、晩飯はどうする?食堂はやっているのか?」


メ「食堂は11時から15時の間だけだよ。朝食と夕食は宿泊施設の方で取ってね!」


ヤ「ご飯、おいしいといいですね!」




まあ、はじまる様もずっと食堂にいるわけには行かないか。俺達はしばらく歩くと、ビジネスホテルがあった。




メ「ここが泊まる場所だよ!朝食、夕食は電話でフロントに注文してね!部屋には充電器はあるけど、TVもパソコンも無いからね!」


レ「充電器はあるのか。電力とか水道とかどこから来ているか聞かない方がいいか?」


メ「神のエネルギーとか魔法とかいろいろだよ!」




充電しても通話、ネット自体は繋がらないし、時間の確認とアラームに使うくらいか?日本時間とそのままリンクしてるっぽいから時計としてはこのままでいいや。




ヤ「部屋がいっぱいありますけど、どこでもいいんですか?」




弥生がビジネスホテルを見上げながら入口に入っていった。




ケ「こんばんワン、いらっしゃいませワン。あたちはケルベロだワン、ケルベロちゃんって呼んでほしいワン。」




ホテルの入口に、小さな犬耳の少女が居た。見た目130cmくらいでとげのついた首輪みたいなものをしている。ちらりと見える尻尾は左右にフリフリとゆれている。




メ「わー、私より小さい子だ!お手伝いかな?よしよし。」




メィルがケルベロちゃんを撫でようとした。しかし、その手は空振り、代わりにドスッと鳩尾みぞおちにパンチされている。メィルにクリティカル発生。8909760ダメージ中、スキル効果により999ダメージに軽減。状態異常:振動酔いになりました




ケ「あ?誰がチビだとこの見習い。あたちはこれでもラヴィ様に仕えている女神で、女神ランクⅢだ。次に舐めた口利いたら消すぞ?」


メ「ご、ごめんばはい、ゆるじてください・・。」




メィルは腹を抑えてうずくまりながら謝った。ケルベロちゃんはフンッっと鼻を鳴らすと、何事もなかったかのように笑顔になり、さらに脅しをかけた。一瞬だけど7桁ダメージじゃなかったか?実際のダメージ999(8909760)みたいな表示。




ケ「追跡スキルで攻撃しましたワン。HPは必ず1以上残りますけど、あたちがスキルを切らない限り、永遠にあなた達の居場所が分かるワン。」


レ「・・・。今、あなた達って言わなかったか?俺達も巻き添え?」


ヤ「わ、私たちは何もしていませんよ?」


ケ「当然ですワン、飼い主の無礼は飼い犬も連帯責任ワン。ちなみに、あたちの素早さは基礎値で777万あるから逃げられると思うな?ですワン。」




うん、一生逃げられそうにないステータスだな・・。そもそも転移してきそうだ。そのうちスキル効果を切ってくれることを願う。




メ「し、死ぬかと思った・・。今度から見た目で判断するのは絶対やめる。」




しばらくふらついていたメィルは、びくびくと俺の背中に隠れながら呟いていた。俺を盾にしても、なんの意味も無いぞきっと。




ケ「それでは、ご希望されるお部屋はありますか?ワン。無ければ444号室と999号室にご案内しますワン。」


レ「いや、不吉すぎるだろその部屋番号。できれば隣同士の部屋で、1階がいいかな。」


ケ「分かりましたワン、それでは101号室と102号室をお使いくださいワン。何か御用がありましたら、お部屋の電話でフロントにコールしてくださいワン。」




ケルベロちゃんは俺たちに101号室と102号室の鍵を渡すと、フロントのカウンターへ入っていった。




レ「メィルはもう大丈夫か?」




俺はすでに平気そうについてきているメィルに聞いてみた。




メ「状態異常はともかく、HPは自動回復(中)があるから、4分あれば全快するよ!」


レ「4分でHP全快か、すげーな女神。」


メ「まだ見習いだけどね!同レベルの相手には効果あるけど、格上だと意味無いし。」




女神は、格ランクが上がるごとにおおよそ強さが10倍くらい違うそうだ。メィルとケルベロちゃんでは、見習い→女神Ⅴ→女神Ⅳ→女神Ⅲと1000倍くらい素のステータスが違うらしい。




また、スキルの取得数が全然違うため、実際はもっと差があるそうだ。ちなみに、ラヴィ様は女神ランクⅠだそうで、ケルベロちゃんの更に100倍くらい強い。規格外すぎて俺のステータスと比べる気も起きないな。




レ「とりあえず、時間もあるし一緒の部屋で飯食わないか?メィルも一緒に食うだろ?」


メ「女神は食事を取らなくても死にはしないけど、味を楽しむ事は出来るから食べるよ!エネルギー効率100%で分子分解までするからトイレも行かなくていいし!」


レ「よくわからんが、食っていくってことだな。よし、注文するか。」


ヤ「私は親子丼がいいです!お腹空きました!」


メ「私はミートソーススパゲッティかな。オレンジジュースも!」


レ「俺は昼がカレーだったから、夜はラーメンでも食うかな。しょうゆラーメン。」


ヤ「源さん、塩分の取りすぎは健康に悪いですよ!」




俺はフロントにコールし、ケルベロちゃんに注文をした。




ヤ「それにしても、ケルベロちゃんが語尾に「ワン」ってつけてるのは、わざとですかねぇ?」


レ「わざとじゃないか?メィルを脅したときはつけてなかったし。」


ケ「おめーらには関係ねーだ・・、どちらでもいいじゃないですか?ワン、お待たせしましたワン。」


振り向くと、すでに注文した料理を「おかもち」からテーブルに並べているケルベロちゃんが居た。


メ「わ、私は関係ありませんよ?」




メィルは、後ずさりしながら、転移できることを思い出したように転移した。したけど、1秒後には胸倉をつかまれた状態でケルベロちゃんに連れ戻されていた。


ケ「飼い主の責任だろ?まあ、せっかくの料理だ、冷める前に食って行けよ。」




ワンと付けるのが面倒くさくなったのか、素でしゃべってるっぽい。思ったより怒っていないのか、あっさりとメィルを床に放り出すと、




ケ「ごゆっくりおくつろぎくださいませワン。お食事が終わりましたら、器は扉の前に出しておいていただければ回収しますワン。」




そう言って形ばかりのお辞儀をすると、転移で帰っていった。




メ「うぅ、ひどい目に遭いました・・。何もしてないのに。」


ヤ「ご、ごめんなさい。もう話題に出すのはやめた方がいいですね。」


レ「そうだな、俺達だと1発で消滅しそうだし・・。」




俺たちは食べ終えた食器を片付けると、メィル、弥生と明日の予定や、今日の反省などの話をして別れた。メィルは転移で帰り、弥生は102号室へ歩いて行った。




レ「それにしても、まんまビジネスホテルだな。風呂は部屋にあるし、飲み物は冷蔵庫に入っていると。」




俺は冷蔵庫から缶ビールを取り出すと、ぐびぐび飲んだ。携帯を充電しつつ、タイマーを明日の朝6時にセットすると、シャワーを浴び、歯磨きをしてから寝転がった。




レ「夜は暇だな。イメージトレーニングでもするか。」




俺は分裂で出来そうなことを考えていたら、いつの間にか寝てしまっていた。


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