第7話 蘇生と食堂
レ「あれ?ここって最初の受付の場所だよな?」
俺は確か、1階の非常用扉を開けて・・。その後の記憶が無いぞ?
ヤ「気が付きました!?よかったです~、消滅しなくてよかったですね!」
弥生は、俺の両手を握ると、ぶんぶんと上下に振って喜びを表していた。
レ「え?消滅って?どうなったか教えてくれないか?」
ヤ「あ、その前に、ふ、服を着てください!」
俺は起き上がったときに体の上に掛けられていたコートがずり落ちて半裸になっていた。スーツや下着などはひとまとめにして近くに置いてあったので、慌てて服を着た後、弥生から詳しい話を聞いた。
非常階段を開けてすぐ前にゴブリンが待ち構えていて、振り下ろされた爪が頭にクリティカルヒットして即死し、コアになって残ったこと。弥生はなんとかゴブリンを倒し、なんやかんやで入口まで戻ってきてコアをラヴィ様に渡して蘇生してもらったという事だった。
ラ「よかったですね。もし、コアが破損していたら蘇生できませんでしたよ?」
ラヴィ様がぎゅっぎゅとおにぎりポーズを取りながら怖いことを言う。
レ「そうか、助かったよ弥生、ラヴィ様。ありがとう。怪我はないか?」
ヤ「はい!反射的に落ちていた短刀スラタンをゴブリンの喉に刺したら一発で倒せました!その後、源さんのコアや服等を拾って、ゴブリンを倒しながら戻ってきました。あっ、あとはこれをどうぞ!」
そう言うと、弥生はポケットからゴブリンのコアを10個ほど俺にくれた。
レ「こんなにもらっていいのか?弥生ががんばったんだから、弥生が使えばいいよ。」
ヤ「大丈夫ですよ、ここに来るまでに数十個食べましたから!途中で食べ飽きたので、残ったのがそれだけです。」
弥生のステータスを見せてもらうと、結構強くなっていた。そして、スキルも増えていた。
形無弥生:HP122、MP85、攻撃力12、防御力13、素早さ26、魔力1、スキル:変化、投擲術(1)
投擲術(1)は、投擲ダメージに1.1倍の効果がつくようだ。
これだけ強ければ、クリティカルさえなければゴブリンからダメージを受けることもなさそうだ。ありがたく俺もゴブリンのコアを使わせてもらおう。
レ「これ、どうやって使うんだ?弥生みたいに飲み込めばいいのか?」
弥生は確か、スライムのコアを飲み込んで強くなったはずだ。
ラ「コアを砕くか、体内に取り込めば使用したことになりますよ。固さは飴くらいなので、噛み砕くか、武器で叩き割ればいいと思います。ある程度強くなれば、指先で潰し割ったりできますよ?」
ラヴィは右手の親指と人差し指でぷちっと潰すように見せた。落としたくらいじゃ割れないっていうのは一安心か?
さっそく俺はコア使いたいが、食いたくはないので、弥生からスラタンを返して貰うと、叩き割っていった。
源零:HP53、MP35、攻撃力5、防御力10、素早さ15、魔力1、スキル:分裂
ほどほどMPも増えたし、これだけ防御力があればゴブリン相手に死ぬことも無いだろう。あとは、地道にゴブリン狩りでもして強くなるか。
ラ「あ、ちなみに今回の女神の試験は特別ルールが適用されるようです。いつもより経験値が多くもらえる代わりに、1か月以内にクリアしないと消滅します。」
レ「急だな!?俺の心読んでない?」
ラ「女神ですので。それに、ここを攻略しているのはあなた方だけではないので。」
俺たちだけじゃないのか。もしかして、最初にクリアした見習い女神だけが昇神する感じか?メィルが女神にならなくても別にいいけど、消滅は嫌だな。1か月で10階か・・。1階あたり3日しかないじゃん!?
ラ「あと、階層が上がるごとに格段に強くなりますのでお気を付けください。」
うん、やっぱり心読まれているな。急がなければならないけど、腹が減ったな・・。
ラ「こちらに食堂がありますよ?お金は要りませんので、階層クリア時にでもエレベーターで戻ってきて食事をする事をお勧めします。」
ヤ「やった!無料ですか!走り回ってお腹が空いていたので助かります!」
弥生はダッシュで食堂に向かった。食堂に着くと、カウンターの前に券売機があり、好きなものを押せば注文されるようだ。
弥生はハンバーグ定食、俺はカレーを注文した。食堂に来たら何故かカレーが食いたくなるんだよなぁ。しばらくすると、カウンターに料理が運ばれてきた。
は「へい、おまちどう!温かいうちに沢山食べな!」
料理を持ってきたのは、つるつるの頭に、いかつい目で瞳が黒、身長180cmくらいだろうか?むきむきまっちょで、背中には翼が12枚、鼻の下にはくるりんとした髭、上半身裸で和服を着崩したような恰好にエプロンというおかしな格好をした男神だった。どっかで見たことあるような・・パンフレットか・・?
レ「って、はじまる様じゃないですか!?なんで食堂に?」
は「今はわしが料理長じゃ!ラヴィは料理が出来ないのでな。ただし、わしも忙しいから1か月間だけの臨時じゃがな。」
もしかして、1か月の期限が決まったのってこれが理由じゃないのか?ラヴィ様が料理したくないとか、ラヴィ様の料理食ったら死ぬとか?とりあえず、弥生と一緒に料理を受け取ると、テーブルに着いた。
うん、見た目は普通のカレーだな。弥生のハンバーグ定食は、大きいハンバーグにコーンやサラダ、みそ汁に漬物までついていて結構豪華だ。セルフの水を汲んできていただきます。結構うまい。家庭の味よりもお店の味って感じだ。
ヤ「おいしいですね、源さん!今度来たときは焼き魚定食を食べたいです!」
レ「日本基準の食堂は助かるな。そのうち、他の異世界人に会うことがあるかもしれないな。」
ヤ「じーっ。源さんのカレーもおいしそうですね!一口もらっていいですか?」
弥生は、答える前にいつの間にか握っていたスプーンで勝手にすくうと、ぱくっと食べた。こういうやりとりは年の離れた妹を思い出すな・・。
レ「はしたないことをするんじゃない。また今度食べればいいじゃないか。」
ヤ「だって、人の食べているものっておいしそうに見えませんか?」
それには同意するが、やれやれと残りのカレーを食べた。
レ・ヤ「ごちそうさまでした。」
は「おう、がんばるんじゃぞ!」
俺たちは、はじまる様に食べ終わった食器を返すと、食堂を出た。再びダンジョンの1階に来た。スラタンを構えながら、ゆっくりと廊下を歩き、角からそっと覗くと、ゴブリンが居た。
レ「弥生、今回は俺にやらせてくれ。弥生はすでに一人で倒しているが、俺はまだまともな戦闘をしていないからな。」
ヤ「わかりました。何かあったら私も手伝いますね、手裏剣の投擲で。」
弥生は、しゅっしゅっと手裏剣を飛ばす真似をしたので、俺は分裂で2㎤の固い塊を3個作ると、これで手裏剣を作ってくれと弥生に渡した。弥生の手裏剣ってスライムにあっさりはじかれていたプラスチックっぽい奴だろうからな。
レ「ゴブリン!こっちだ、かかってこい。」
ゴ「ぐぎゃーー!」
ゴブリンは右手を上げ、俺の方に突っ込んできた。俺は上がった素早さのステータスを生かして、振り下ろされた爪を回避すると、背後に回り込んでスラタンで背中を刺した。
初めて攻撃するけど、血が出ないせいか、忌避感はあまりなかった。まるで、丸太にナイフを突き立てた様な感じだ。ゴブリンに10ダメージ。ゴブリンのHPは確か15だから、残り5か。
ゴ「ぐげっげげ!」
ゴブリンは振り向きざまに右手を振りぬくと、俺の肘に爪がかすった。ゴブリンの攻撃力は10、俺の防御力も10。ダメージは0だ。
レ「よし、痛くないぞ!これで止めだ!」
俺はスラタンで上から振り下ろすと、ゴブリンは左腕でガードした。まあ、ガードしてもしなくても急所じゃない限りダメージ一緒なんだけどな。ゴブリンに10ダメージを与えると、ゴブリンはコアになった。
よし、俺でも十分倒せるようになったぞ!ゴブリンのコアを拾うと、意気揚々と進んでいくのだった。
十数回の戦闘を弥生と一緒にこなすと、前回見つけた非常階段の扉の所についた。今回は非常階段に入る必要は無いだろう。弥生に作ってもらったメモ帳と鉛筆で、マップに書き込んだ。変化って便利すぎる。
ゴブリンのコアを弥生と半分に分けた。弥生は飴をがりがり噛む感じで食べて割り、俺はスラタンで叩き割ると、ステータスが上がったので割り振った。
源零:HP53、MP45、攻撃力10、防御力15、素早さ15、魔力1、スキル:分裂
形無弥生:HP122、MP90、攻撃力15、防御力13、素早さ28+3、魔力1、スキル:変化、投擲術(2)
投擲術(2)は投擲ダメージ1.2倍、素早さ1.1倍になるようだ。
魔法を覚えてないから魔力へは全くステータスを振っていないけど、将来を見越してそろそろ振るべきだろうか?俺は敵が居ないことを確認し、マッピングを続けながら歩いていくと、床に少し色の変わった部分があった。
レ「なんだこれ?汚れか?」
俺は何の気なしに少し赤い部分に靴でつついてみた。
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