第3話 ヒロインとスキル

ヤ「きゃぁぁー。来ないで!」




俺に言っているんじゃないよな?と思いながら、急いで悲鳴が聞こえたほうへ向かった。角からそっと見てみると、忍者みたいな恰好をしたかわいい女の子がスライムに襲われているところだった。すべって転んだのだろうか、体中がぬるぬるの粘液まみれでうまく立てないようだった。




ヤ「こうなったら最後の手段!えいっ!」




彼女はそう叫ぶと、胸元から手裏剣(攻撃力1)を出すとスライムに向かって投げた。手裏剣は、スライムの表面でブニョンとはじかれて落ちた。スライムに0ダメージ。




ヤ「そ、そんな・・。最終兵器が・・。」




彼女の最終兵器らしい手裏剣も、スライムには効かなかったようだ。スライムが攻撃しようとしているのを見て、俺はカバンを漁り、たまたまあったある物を握ると角から飛び出した。




レ「これでも食らえ!」




俺は食べられませんと書いてある乾燥剤を開け、中からシリカゲルを取り出した。1mくらいあるスライムに大さじ1杯程度のシリカゲルが効くのかわからないが、目くらましくらいになればいいやと思ってかけた。スライムに0ダメージ。状態異常:脱水になりました。




すると、シリカゲルがかかった部分の表面が泡立ち始め、体積が減っていくとともにのたうちまわっていたスライムがコアになった。スライムのコアは水色で、ビー玉みたいな大きさだった。




※スキル:未確定がスキル:分裂になりました。




俺は初めて倒したモンスター、スライムの能力を得たらしい。一応、スライムのコアを拾い、彼女の手を引っ張って起こした。




ヤ「ありがとうございます。危うく死ぬところでした・・。」




彼女は、自分を両手で抱くようにして震える。




レ「他に敵が居るかもしれない。一旦ここを離れようか。」




彼女は慌てて左右を確認し、首を縦にぶんぶんと振った。他にスライムが居ないことを確認しながら、俺たちは非常階段まで戻り自己の状況を話し合った。




扉を開け、一応扉を背もたれにして急に開かないようにして座った。まあ、スライムがドアノブを開けられるとは思わないが、ちょっとした隙間から入ってこないとも限らない。




彼女は少し離れた位置に座ると、ぬるぬるの体を拭いた後、自己紹介を始めた。




ヤ「私の名前は形無かたなし 弥生やよいって言います。弥生と呼んでください!年齢は22歳で、忍者村で働いていたんですけど、たまたま今日、出張で東京に来たときに電車事故に遭ったみたいで・・。気づいたら、メィルとおっしゃられる女神様が目の前に居ました!」




彼女は大分さっきのショックから立ち直ったのか、明るく話してくれた。




レ「俺の名前は源零みなもと れい。年は今年30歳で普通のサラリーマンだ。東京駅でいつの間にか電車事故に遭って死んだみたいで、気づいたら同じくメィルの前に居た。」


メ「私が事故った2人を千里眼で見つけ、死体を転移させ蘇生しました!」




いつの間にか、隣にメィルが右手をピンと上げながら正座で座って居た。




レ「びっくりした!なんで急に現れてるんだよ。」


メ「そろそろ様子を見ようかと。暇だったので。」




メィルは悪びれることなく言い放った。




レ「理由が暇だからか・・。丁度いい、聞きたいことがある。」




俺はメィルに詰め寄ると、びしっと人差し指で指す。




メ「そうですね、丁度スキルも得たことですし?」




メィルは指さされても気にすることなく、まぁそうですよねっていう顔をしている。




レ「その前に、事故った2人って言ったよな?俺が生き返ったときは一人だったんだけど。」


メ「千里眼、転移、蘇生にMPが必要なので、MPが足りなくて時間差となりました。ちなみに、彼女が線路から落ちる時にあなたのコートを掴んだので、一緒に轢かれて死にました!」




メィルは弥生を両手で指さしたあと、その指を俺に向けて「バキューン」と言った。




ヤ「わ、私が源さんの死んだ原因ですか・・。すみません!たぶん、ぼーっとしてて足を踏み外し、近くにいた源さんを掴んだのだと思います。私、昔からドジっ子とか、ぼーっとしてるとか言われるので・・。痛い思いをしませんでしたか?」




弥生が怒られてしゅんとした猫の様な顔で、俺のほうを目をうるうるさせながら見てきた。




メ「大丈夫です!源さんは1分ほど時間を戻していますので死んだ時の痛みや記憶は無いはずです!」




俺が返事をする前に、メィルが答えた。




レ「どおりで俺に死んだ記憶が無いわけだ・・、1分程幽体離脱みたいな感じだったが。」




今となってはあれが現実だったのか、夢だったのかも分からない。正直、電車にぶつかる寸前で転移させましたと言われても分からなかっただろう。




メ「じゃあ、そろそろスキルの話をしましょうか。」




メィルは「事故の話はこれくらいでいいでしょ?」と言わんばかりに話を切り替えた。




レ「あっさり流すな!?まあ、積もる話は後にして、スキルの話を聞こうか。早くダンジョンから出たいし。」




他に気になる話もあるが、異世界ものといえばやっぱりスキルが気になるところでもある。




メ「では、話しますね。まず、基本的な話ですが、スキルの使用にはMPが必要です!これはお二人とも持っていますので大丈夫です。そして、これが彼女のステータスです。」




メィルは空中に手を突っ込むとホワイトボードを取り出した。ダンジョンの入口にあったやつか。




形無弥生(人間):HP2、MP30、攻撃力2、防御力2、素早さ4、スキル:変化




弥生のステータスは俺とほとんど変わらないようだ、ただ、一点気になるところが。




レ「え?もうスキル持ってるの?俺の時はスキル無かったのに。」




俺は男女差別か?同性優遇か?とメィルの方をにらんだ。




ヤ「いえ、私もスキルは持っていませんでしたが、ゴブリンから逃げてるうちに非常階段を見つけたので、そこから2階に昇り、しばらく歩くと急にスキルを得ました。使い方が分からないのでまだ使ったことはありませんが。」




弥生は何でスキルを得たんでしょうね?と、ほっぺたに人差し指を当てながらかわいく首を傾げていた。頭の上にクエスチョンマークが見えるようだ。




メ「それはですね、ドッペルスライムというレアスライムを踏み潰したからです!そして、ドッペルスライムのステータスがこちらです。」




メィルがホワイトボードをタッチし、画面をスライドさせると弥生のステータスからドッペルスライムのステータスに表示が変わった。




ドッペルスライム(動物):HP1、MP50、攻撃力1、防御力1、素早さ1、スキル:変化




メ「変化したらそれなりに強いスライムですが、変化前に潰したので倒せたようですね!」




メィルは、ちなみに大きさはこれくらいですと、両手の人差し指で5cmくらいの隙間を作った。




レ「それで、手に入れたスキルの説明をお願いしたいんだけど?」




俺は腕を組むとあぐらで座りなおした。




メ「では、説明します。源さんと形無さんのスキル効果は、分裂は本体が分裂できます!変化は物体を変化できます!」




メィルは分裂のあたりで俺を、変化のあたりで弥生を指さした。




レ「雑すぎるわ!もっと細かい説明プリーズ。」




メィルが「仕方ないですね」とホワイトボード体の前に持ってきて、画面をスライドさせると、スキルの説明が出てきた。便利すぎるだろホワイトボード。




分裂:体積、密度に応じてMPメンタルポイントを使用し、分裂体を作る。


一度作るとある程度のダメージを受けるまで存在し、一定のダメージを受けると形態を保てなくなって消える。分裂体も知識や経験を得ることができ、死亡時にはコアとなる。




コアをもとにすれば分裂体の再現も可能。再現された分裂体内にはコアがそのまま残り、コアを破壊されると消滅し、経験もなくなる。小さすぎる分裂体は作れない。




本体の知識を共有可能で、知識量の設定も可能。知識を全部与えれば、自分と同じように判断し行動するが、知識を全く与えないと設定すると本能すらなく動かない。




コアを作るほどの経験を得ていない場合(経験が新規に無い場合)はコアが残らない。形態が保てなくなる前ならダメージは徐々に回復し、再生していく。






変化:MPメンタルポイントを使って物質を変化させることができる。


変化させるには触れる必要がある。変化は本人がある程度知っているものではないとだめなので、複雑な機構や知らないものは作れない。




ただし、ある程度見たことがあるもの、効果を知っているものなら似たような性能のものを作れる。(炎、氷、鉄など)。変化後一定のダメージを受けると再度変化はさせられなくなる。




元に戻すことは可能。変化後に欠けたりして体積が減ると戻した場合、その分減っている。




レ「つまり、俺は自分の分身を作って戦うことになり、弥生は武器を作ったりして戦うということか?」


メ「簡単に言うとそうですね!それでは、スキルの説明も終わりましたので休憩に入ります!さらば!」




メィルはそういうと、なんちゃって敬礼をした後、転移を使って元の場所に帰ったようだ。




レ「ちょっ!?止める間もなく帰りやがった・・。スキルの説明以外も聞きたいことが山ほどあるのに。」




とりあえず、一旦ダンジョンから出るためにもスキルの訓練をしてから1階の入口に戻ろうと思う。


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