第2話 ゴブリン

1階層はゴブリンだけが出る層だと聞いている。それも、メイジやヒーラー、ファイターやジェネラル、キング等の強い個体は出ず、RPGで例えれば、最初の村の外に出るような雑魚ゴブリンだけである。また、同名のモンスターに個体差は無く、同一のステータスなので強さの差は無い。




レ「ゴブリンって小鬼だよな?勇者のレベルが1でも1~2回の攻撃で倒すようなやつか。」




1階層は学校の廊下を組み合わせて作った迷路のような形だった。


窓はなし、コンクリっぽい壁と天井、通路としては幅4~5mあってそれなりに動くには不都合が無さそうだ。


直線は10m~20m程しかなく、遠距離まで見通すことは出来ない。天井には蛍光灯が点いており十分明るい。




俺はカバンを抱きしめながら最初の角を曲がると、一匹のゴブリンが居た。緑色の体に尖った耳、鋭い爪に爬虫類のような目。大きさは140cm程度だろうが、口は耳くらいまで裂けており、並んだ歯も尖っていて噛まれたらただじゃ済まないだろう。


俺はそっと入口まで引き返した。うん、無理。入口の扉を開けると、ラヴィ様が待機していた。




レ「ラヴィちゃん、あれ無理だよ無理~、バンピーな俺は一瞬で死ぬってYO~。」




チャラ男のノリでポーズをとりつつ、ラヴィに文句を言った。スキルも武器もなしで倒すなんて絶対無理。喧嘩すらしたことないし武道の経験もない、授業で柔道をちょろっとやったくらいだ。




ラ「無理でもやるしかないですよ?ちなみにステータスはこれです。」




ラヴィ様は扉の横にあるホワイトボードをタッチすると、ゴブリンのステータスを見せてくれた。




ゴブリン(亜人):HP15、MP1、攻撃力10、防御力5、素早さ3、魔力1、スキル無




これだけ見ると勝てそうだが・・。普通のRPGならちょっといい武器でもあれば一発で倒せそうだ。




ラ「ちなみに、ホワイトボードの右側のボタンを押すと自分のステータスが見られます。」




そう言ってラヴィは右側のボタンを押すと、ホワイトボートにステータスが表示される。




ラヴィ(女神):HP70億、MP50億、攻撃力3億、防御力1億、素早さ30億、魔力5億、スキル???




ラ「ちなみに、スキル数が100を超えると表示されませんのであしからず。」




俺はぱっと見で分からなかったので、桁数を数えると攻撃力が億だった。




レ「ラヴィ様強っ、めちゃくちゃ強いんだけど!」




さっきのゴブリンのステータスから比べると明らかにゲームが違うくらいの差だ。ドラ〇エに某戦闘民族が参加したような感じだ。




ラ「女神ですから。ちなみにメィルは私の百万分の1くらいの強さです。」




俺は頭の中でラヴィ様のステータスから0を削っていく。




レ「えっ、百万分の1とか弱いな・・と思ったけど、あの見た目でも攻撃力300もあんのか・・。それでも最弱に近いとか女神怖い。」


ラ「別にあなたに危害は加えたりはしませんよ。自身のステータスも一応確認してはいかがですか?」




そう言われて俺もホワイトボードのボタンにタッチした。




源零(人間):HP3、MP10、攻撃力3、防御力2、素早さ5、魔力1、スキル:未確定




・・・弱い。わかっているつもりだったけど予想以上に弱い。単純にゴブリンにダメージすら与えられないんじゃないかこれ。




ちなみにダメージ計算は(攻撃力-防御力)でクリティカルは(攻撃力-防御力)×1.2+攻撃力分貫通らしい。つまり俺は普通に殴ってもゴブリンにダメージを与えられない上にクリティカルでも3ダメージで、クリティカル5回与えてやっと倒せるくらい。




素早さは単純に移動速度や回避速度だから、これが高ければクリティカルは与えやすいが、低ステータスでは誤差の範囲だ。オリンピック選手と素人なら差はあるが、俺とゴブリンなら運動会の1位とビリくらいの差か?




レ「ラヴィ様、何か、何かアドバイスを下さい!お願いします!」




俺は土下座して頼んだ。恥かくくらい、死ぬよりはマシだ。




ラ「仕方ないですね。せっかく時間をかけて説明までしたのに初戦闘で死なれては時間の無駄になるので、弱点くらい教えてあげましょう。」




ラヴィ様は「ふぅ」とため息をついた後、説明してくれた。モンスターには、いや、人間にもだけど必ず急所となる場所がある。そこを突けば必ずクリティカルが出るそうだ。




ゴブリンの急所は目、首、鳩尾、股間。普通に人間とほぼ同じ見た目の敵は人間と同じ急所を持つそうだ。また、不意打ち等の相手が接近に気づいていない時の攻撃もクリティカルの判定になるらしい。


ついでに、ゴブリンは全部オスしかいないそうだ。アドバイスは以上とのことで再度1階層へ。




さっきゴブリンに遭遇した曲がり角へ着いたので、そーっと覗くと、さっきのゴブリンは寝ているようだ。壁にもたれかかってだらしなく腹をだして寝ている。服は腰布っぽい茶色の布だけだから急所はすべて狙える。




レ「よし、今なら殺れるかもしれん。」




静かに近づき、カバン(攻撃力1)の角を目に突き刺す。クリティカル発生、4ダメージ。




レ「よっしゃー!これで片目潰した・・ぞ?」


ゴ「グギャーー!」




ゴブリンが起き、怒りを露わに叫び、にらみつけてくる。両目で。そう、ダメージはHPから減るが欠損はない。つまり・・。




レ「目つぶしも効かないってことだーー。」




俺はダッシュで逃げた。素早さは俺のほうが上なので、ゴブリンには追い付かれない。しかし、入口方面じゃないほうへ向かって逃げてしまったようだ。




右へ左へ逃げるうちに、マッピングすらしてない俺は当然迷った。途中何匹もゴブリンに会ったがそのたびに逃げた。不思議と疲れはしていない。




欠損ダメージが無いのと同様にスタミナも減らないのか?好都合とばかりにさらに逃げ続けると、地球では見慣れた非常階段のマークが見えた。後ろを見ると数匹のゴブリンがまだ追いかけてきている。




レ「助かった!一旦あそこに隠れよう!」




俺は非常階段の扉を開けると、その中に滑り込んだ。それと同時に扉にドカンとぶつかる音がしてガチャリと鍵の閉まる音がした。




レ「は・・?閉じ込められた!?」




俺は焦って扉を開けようとノブを回したが、やはり鍵が閉まったらしく開けられなかった。


鍵は向こう側にしか無いらしくこちらからは開けられない。まあ、開けたら開けたでゴブリンに殺されそうだが。




幸い、ゴブリンも鍵の開け方を知らないのか、扉をたたくばかりで開ける様子はない。仕方なく辺りを見回してみると、2階への階段はあったが、外に出る扉や下への階段は無かった。




レ「ゴブリンにすら勝てないのに2階か・・。2階で運よくエレベーターが見つかればいいが。」




エレベーターは触れるだけで使えるようになるため、1回も戦闘しなくても良いはずだ。俺は恐る恐る2階へ上り、2階の非常階段の扉を少し開き、扉近くに敵が居ないか確認する。




2階は1階と違いまるでナメクジが這ったようにぬるぬるだった。床も壁も天井も。俺は適当に進路を右に取ると、こそこそと進んでいった。




100mほど進んだくらいだろうか、2~3回角を曲がったあたりの先で女性の悲鳴が聞こえた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る