第1話 ダンジョン攻略1日目
俺の名前は源零(みなもと れい)で今年の6月15日で30歳、しがないサラリーマンだ。
特に何の特徴もない一般的な日本人男性と言えるだろう。会社と家との往復の毎日で、今も東京駅で会社に向かう電車を待っている。東京駅は通勤ラッシュで人ゴミだらけだ。平日はいつもこうだとはいえ、もう少し人が少なくてもいいと思う。
そう思って周りを見渡していると、忍者服のようなものを着た女性が目についた。何かのイベントだろうか?女性が人ごみに紛れたので、電車の方を見ると、丁度電車が入ってくるのが見えた。
その時、人ごみから押し出され、引っ張られる感覚があった。
俺はぼーっとしていたのか、いつの間にか電車はとまっていた。人身事故でもあったのか、やけにホームがざわざわとして混雑している。あー、やっぱり事故か。グロ耐性の無い俺は遠目から事故があったらしい場所を見てみる。被害者はスーツに茶色のコートと普通のサラリーマンの格好だ。
レ「って、あれは俺やんけっ!?」
そう、いつの間にか俺は電車に轢かれて死んでいたのだった。
メ「起きて、お兄ちゃん!」
まるで恋愛ゲームに出てくる従妹役のような感じの声がする・・。特に体の不調は感じなかったので、そのまま目を開け起き上がった。
レ「ん・・、どこだ、ここ?自分が死んだ夢を見ていたような・・。」
辺りを見回してみると、6畳一間のような部屋で、小さなかわいい女の子が目の前に、部屋にはテレビっぽいものと漫画っぽいものとお菓子の袋っぽいものでちらかっている。
メ「私が生き返らせたの。練習で。」
視線を女の子に戻すと、女の子は右手を上げ、鉄砲の形にして俺に向けた後、衝撃的な発言をした。
レ「練習!?俺が生き返ったの練習なの!?」
俺は女の子の発言につっこむと、一応自分の格好を見直した。うん、特に血もついてないしスーツも破れてない。
メ「私はメィルって言うの。まだ見習い女神で、女神になるための試験中。試験には異世界人が必要なんだけど、地球ってところ見てたら電車事故があって丁度いいやってね、てへっ。」
メィルはくるくる無駄に回った後、ほっぺたに右手の人差し指を当て、舌をちょっとだして、左手であたまをコツンとたたいた。
レ「丁度いいって・・。まあ、俺も異世界転生ものの小説はよく読むから転生自体はそんなに驚かないけど。」
それに、まだ夢じゃないのか?と思っていた俺は特段リアクションしなかった。
メ「ほんとっ!?転生に詳しいなら、ついでにダンジョンをクリアしてきてよ!」
メィルは目をきらきらさせながら、両手を胸の前にグーでもってきて、いわゆるぶりっ子ポーズをとっている。
レ「いや、そんな簡単にはいかないよ!?知識はあっても、自慢じゃないけど人生で何のスキルも得てない本当に一般人なんだから。」
メ「大丈夫、私は見習いだけど女神だよ!能力くらい付けれるよ!」
メィルはドヤ顔で俺を指さしてきた。指さすなよ!
レ「能力ってどんな能力だ?」
メ「それこそ自慢じゃないけど、まだ見習いだからね!あなたに付けてあげられる能力は一つだけ。」
メィルは真剣な顔で、顔の前に右手の人差し指だけ立てた。
レ「で、どんな能力だ?それによってはダンジョンに行くのもやぶさかではないが。」
チート能力さえもらえるなら、むしろ冒険者をやってみたいほうだ。召喚されて、勇者よ、世界を救ってくれ!とかじゃないけど、ダンジョンと聞くだけで夢が広がる。
メ「ダンジョンで最初に倒したモンスターの能力を得る能力よ!」
メィルはビシッと俺の額に指さしていた指を当ててきた。額に光の波紋が広がると、これで能力付与終了よ!と言った風にドヤ顔のまま腕を組む。
メ「あっ、能力を得たから、もう地球には帰れないよ。」
メィルはとんでもないことを事後報告してきた。
レ「実質は能力無いじゃん!無能力者だよ!」
メィルはチッチッチッと指を振って否定する。
メ「ダンジョンの1階ならモンスターも弱いよ。そういうわけで、はじまるのダンジョンへ行ってらっしゃい。」
メィルは笑顔で、小さく右手でばいばいする。しぐさだけ見るとかわいい。少し照れてしまった。
レ「言い間違えか?始まりのダンジョンじゃないのか?」
メィルは首をふりふりすると、しょうがないなぁというポーズをとった。
メ「ううん、はじまるのダンジョンで合ってるよ。はじまる様が作ったダンジョンだよ。」
レ「誰だよそれっ!」
メ「とにかく、ダンジョンの近くに転送するから、がんばってね!」
メィルは両手を俺にかざすと、足元に光の魔法陣が発生した。魔法陣に沈むように俺の体が飲まれていく。
転送中・・・転送完了。
足元から頭に向かって魔法陣が動くと、魔法陣が過ぎたところから体が実体化していく。
30m程前には縦横3mほどの洞窟の入り口と、少し奥に洞窟の出入りを防ぐように鉄の扉が見えた。
レ「ここがはじまるのダンジョンか・・って装備すらねぇよ!」
俺はスーツにコートと革カバンを持っただけの出勤装備でダンジョンに挑まざるを得なくなった。
レ「あ、ダンジョンクリアした時の報酬とかってあるのかな・・。」
半ば諦め顔でそんなことを考えながら、扉に近づいて行った。
レ「スタンピードを防ぐためか、やけに頑丈そうな扉だな・・。よっと、くっ、押しても引いても開かないな、どうすればいいんだ?」
俺は門を調べると、門の右端にインターフォンを見つけた。インターフォンを押してみる。
ラ「はい、こちらはじまるのダンジョン受付のラヴィです。お名前とご用件をお願いします。」
俺はダンジョンなのに受付?と思いつつも返答した。
レ「源零と言います。あの、見習い女神のメィルからここのダンジョンをクリアしてほしいとお願いされまして。」
ラ「かしこまりました。連絡は受けております。今、扉をお開けしますね。」
ラヴィがそういうと、どう見ても開閉しそうな鉄の扉の左側半分だけが左にスライドして行った。
レ「こういう仕組みって初めてだな・・、せめて全部スライドしろよって思うけどインターフォンが引っかかって壊れるのか?」
と、どうでもいいことを愚痴りながら扉の中に入った。
中に入ると、ホテルのカウンターのような受付に、ピンクの髪で、短いうさ耳をした少女が居た。
目は赤く、身長は157cm、赤と黒のスーツに黒ハイヒールを履いている。
ラ「改めまして、ようこそおいでくださいました。私はラヴィと言います。このダンジョンの受付と、説明役を兼ねております。」
ラヴィは両手を前に組み、丁寧(ていねい)にお辞儀(じぎ)をした。
レ「じゃあ、さっそくで悪いけど色々と説明が欲しい。メィルからはほとんど何も知らされていないからな。」
ラ「では、ここに来てよく聞かれる、何故ダンジョンをクリアするのか、というところからご説明させていただきます。まず、こちらがパンフレットになります。」
ラヴィはカウンターに積まれている冊子を渡してくれた。冊子を受け取ると、表紙には「初心者向けダンジョン攻略」と書かれていた。
ラ「目次は飛ばしまして、1ページ目をお開きください。まず、このダンジョンははじまる様がお創りになりました。はじまる様はいわゆる創造神に当たる方で、大変忙しい方です。そして、女神は創造神様のサポートを行っております。様々な星や他次元で起きた事件を、創造神様の代わりに解決するという仕事ですね。そして、女神になるには、女神見習いが異世界から転生等で呼び寄せた人物にこのダンジョンをクリアさせることが一つの条件となっております。」
冊子1ページ目には、はじまる様の絵と女神の仕事と書いてあった。
箇条書きにされた仕事の一つに、女神はあらゆる出来事を解決する。と書いてあり、あらゆる出来事の一例としてダンジョンの掃除とあった。
レ「え?ダンジョンで死んだモンスターが消えたり、遺体や装備が無くなるのって女神様が掃除してるの?」
ラ「ちなみに、私はこのダンジョンを任されている女神です。他の異世界は分かりませんが、この世界のダンジョンは、モンスターや人が死ぬと女神のパワーで死体を圧縮してコアと呼ばれる経験の球にします。なので、ドロップ品は基本的にありません。」
ラヴィは女神だったのか、これからは様を付けよう。ラヴィ様はかわいく両手でおにぎりをつくるようにぎゅっぎゅと握って見せてくれた。
レ「マジか・・。じゃあ敵を倒して装備を奪ったり、魔法のスクロールなんてのも無いのか。」
俺は異世界物でよくある、主人公が普通ドロップしないようなアイテムや魔法を得て最強になる類を夢見ていたんだが・・。
ラ「ありませんね。装備も基本的にモンスターの一部ですので残りません。スクロール自体は存在しますが、ドロップはしません。メィルからスキルをもらっていると思いますので、それで敵を倒してください。」
レ「スキルはもらっているけど、モンスターを倒さないと得られないらしいんだけど・・。」
ラヴィ様は、「ふぅっ、やっぱりメィルね。」って感じのため息をつく。
ラ「メィルは見習いの中でも最弱に近いパワーしか持っていませんからね・・。ちなみに最弱見習い女神はスキルすら付与できないので、まだマシかと思います。」
ラヴィはたんたんと説明した後で、最弱見習い女神は女神予備軍に落とされて、今はメィルが最弱だったかもしれないと思いなおしたが、あえて訂正はしなかった。
レ「最悪じゃないだけマシって納得いかないが。ちなみに、ラヴィ様が何かスキルをくれたりなんかは?」
俺は藁にもすがる思いで、両手を組みラヴィ様に祈った。
ラ「すみませんが、決まりで私は見習い女神の手伝いが出来ないことになっております。アドバイスくらいは出来るのですが。」
ラヴィ様の少し困った顔もかわいい、じゃなくて、俺はこのままじゃすぐ死ぬんじゃないか?転生した勇者が死ぬことはほぼ無いが、俺は一般人だしな・・。
レ「俺がもしダンジョンで死んだら・・?」
ラ「圧縮してコアにします。圧縮は物理的ではなく、データや魂的な感じです。もし、そのコアが壊されたら消滅します。」
ラヴィは再びぎゅっぎゅとおにぎりを作るように握って見せた。
レ「マジか・・。じゃあダンジョン攻略は諦めるんで地球に返してとかは・・?」
メィルは無理だと言ってたが、女神であるラヴィ様なら出来るかもしれないと淡い期待を寄せる。
ラ「諦めるのは自由ですが、新しい者が召喚されるだけだと思いますよ?決まりでクリア前に帰す事はできませんし。あなたがダンジョンをクリアし、メィルが女神に昇神した時に転送してもらって下さい。」
ラヴィ様は小動物をいじめるような目で、にっこりとほほ笑んでいた。こうして俺は本当にダンジョンに行くしか無くなったのであった。
他にダンジョンの説明としてHPヒットポイント,MPメンタルポイントがあり、HPは0にならない限りは死なないこと。
HPは1でも残っていれば普段通りに動けること。ダメージはどこの部分で受けても一緒で欠損ダメージは受けないが、普段から生え変わる部分は対象外とのこと。
爪、髪は切れるがダメージは受けない。歯は生え変わらないからダメージを受ける。階層最奥にはエレベーターがあり、ボタンを押すと階層クリアとして記録され、クリアした階層まで自由に使えるようになること。
10階にボスが居るので倒したら全クリアになる事等教えてもらった。ちなみに、ダンジョンと言いつつ普通のビルにしか見えない。俺はラヴィ様に連れられて、ダンジョンの入口に着いた。
レ「よし、行くか。と言っても何も準備するものも無いが・・。」
念のため、念入りにストレッチをして会議室の扉のようなものを開けて1階層へ踏み込んだ。
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